IDÉE - New Direction #1 - Early Spring 2023

"Art Ensemble of Life"

Scene01

    • Art Ensemble of Life

      モダンデザインの家具、コンテンポラリーなプロダクト、
      一方で手の痕跡を感じるクラフトやラスティックなフォークアート、
      経年の美しいヴィンテージのテキスタイル、そしてアート。
      それぞれが個性を持つものを美意識を持って選ぶ暮らし。
      それぞれに強い個性を持つものがぶつかり、時に不協和音を奏でながらも、共鳴し合う空間。
      国や時代背景、有名無名関わらずに、これが良いと思うものを選び、
      暮らしの中でどう楽しむかを日々創造しながら、丁寧に重ねていくことこそ、
      豊かな暮らしに繋がると考えています。

Scene02

IDÉE - New Direction #1 - Early Spring 2023

"Art Ensemble of Life"

  • Styling - Kazuto Kobayashi
  • Photo - Kazuhiro Shiraishi
  • Direction - IDÉE
Profile.
Kazuto Kobayashi / 小林和人

Roundabout / OUTBOUND店主。1999年、吉祥寺の古いキャバレー跡地のビルを改装し、国内外の道具を取り扱う店 Roundabout(ラウンダバウト)を始める。2008年には、物がもたらす作用に着目する場所 OUTBOUND(アウトバウンド)を開始。2016年には建物の取り壊しに伴い、Roundaboutを代々木上原に移転。延べ20年以上に渡り、さまざまな物品を選び、集め、空間に配し続けている。

Kazuhiro Shiraishi / 白石和弘

1980年東京生まれ。東京農業大学卒業後、10BANスタジオ勤務を経て、2007年より写真家上田義彦氏に師事。2011年独立。静物、ポートレートだけでなくジャンルにとらわれず撮影をし、雑誌、広告などをはじめ作品制作も行い多岐にわたり精力的に活動している。著書に『また、あうものたち』(アカツキプレス / オークラ出版)。

Special Interview

今回のスタイリングをしてくださった小林和人さんは「Roundabout(ラウンダバウト)」、「OUTBOUND(アウトバウンド)」という温度の異なる2つのお店のオーナー。生活に纏わるさまざまなアイテムを独自の審美眼で取り揃えた素晴らしいショップを営んでいる。
イデーではこれまでスタイリングをはじめ、さまざまなイベントや企画にともに取り組んできた。
いつも新しい世界観を表現してくれる小林さんに、今回のスタイリングのことや、イデーへの想いをインタビューした。

イデーが小林さんに初めてスタイリングの依頼をしたのって2009年頃でしたよね。

そうですね。2009年のCONTOUR SHELFのスタイリングでした。
実は学生の頃、2社だけ就職活動をしたうちの1社がイデーでした。当時、黒崎さん(イデーの創設者)が「我々の仕事は編集なんだ」と仰っていたのが印象的で。その言葉が残っていたのでイデーの仕事をすることになったときは光栄でした。

そのあとはカタログのスタイリングや企画を一緒にやってきましたね。

2013年と2015年のカタログ、ほかにも2014年の"FOLKWAYS"という企画では、今回のスタイリングにも登場しているマーク・ニューソンのEMBRYO CHAIRやSUPER GUPPY LAMPを使いましたね。

イデーが小林さんに何かお願いをするときって、自分たちが一度立ち止まって、考え直しているときが多いように思います。

嬉しいですね。そういう存在でありたいです。 枠組み外の存在というか。枠組みの中にいるとできないことをするのが自分の役割かなと思うので。

イデーはこれからも、古いものや新しいもの、手仕事のものとかをもっと自由に愉しむ世界観を伝えていきたいなと思っています。
でもそれって今まで伝えてきたことの延長線上にあることで、まったく新しいことではないんです。
ずっと言い続けていることを新たな視点で表現できないかなと思い、そんなときは小林さんだなって。

ありがとうございます。今回、自分のスタイリングしたアプローチも同様ですね。
現代美術家の大竹伸朗さんの『既にそこにあるもの』という本がありますが、そのタイトルを借りるとしたら、何十年というイデーの歴史のなかで、蓄積して醸造されてきた芳醇な土壌が抱く「既にそこにあるもの」を奥底から撹拌して浮かび上がらせる湯かき棒(笑)、これが自分の役割であることを自覚しながら臨みました。

イメージソースになったものはありますか?

学生時代に購入した1997年のイデーのカタログVol.2です。
それはイデーの世界観を体現しているもので、どこかひんやりとした空気感というのが根底にあった気がして。
でもそれをそのままなぞっても仕方ないので、それを頭の片隅に置きながら、今の自分の感覚で並べれば、自ずと今の時代のイデーらしさというのが立ち上がってくるんじゃないかなと、いろいろ考えを巡らせて挑みました。

今回の "Art Ensemble of Life" というディレクションテーマを聞いてどう思いましたか?

ハーモニーだけじゃないんだな、という。心地よい不協和音みたいなものを意識しているんじゃないかなと思いました。 予定調和ではなく、〇〇風、〇〇スタイルみたいなものではない、無所属の空間・空気感を求められているんじゃないかなと解釈しました。

スタイリングをしてみて感じたことはありますか?

空気の通り道みたいなものができたというか。「リビング」や「ダイニング」というような規定から離れて、なおかつ広がりのある空間をつくれたのは楽しかったし、やりがいがありました。
余白というのは大事にしつつ、今回使用したマーク・ニューソンのデザインにしても、倉俣史朗のデザインにしても、時代の色が濃厚とはいうものの、やはりデザインの強度が高いものは、さまざまな設えに対して魅力を更新させながら響いていけるタイムレスな強さを持っているんだなということを感じました。それらのプロダクトの力を再認識しましたね。

Scene02にある村野藤吾のCHIYODA SOFAが印象的でしたね。

このソファが生まれた時代は1960年代でセルジュ・ムーユの照明が生まれた頃と近いですよね。2つが入ることで画に時間的な奥行きが出たと思います。そこにウェグナーの椅子を入れることでテーブルの一群と繋がった様に思います。
ダイニングのしつらえは暖かくなりがちですが、それは自分のトーンじゃないなというか。ダイニングだけどひんやりとした情緒を感じられるような絵にしたかったので、そのことを念頭に設えました。

スタイリングをするうえで意識したことはありますか?

今回、マーク・ニューソンのEMBRYO CHAIRを使いましたが、これは1980年代後期の時代の色がかなり濃厚についているものですよね。当時は未来的な世界観の中にかっこよく配置するのがお決まりみたいになっていましたが、今の感覚で見たら、もうちょっとニュートラルに見られるのかなと思って。
たとえば若い人がSpotifyで80年代の昭和歌謡を聴く、というのは懐かしいものとして聴くのではなく、もしかしたら今のものと並列という感覚かもしれないですよね。だからEMBRYO CHAIRとかに帯びているような文脈性やアイコン性を少し漂白するような並べ方、取り合わせをしてみました。象徴的にスポットライトを浴びせて、というよりも、それらのものたちがあるがままの姿で置かれていて響きあうみたいな感じですかね。スター的な家具が置かれている台座を取り払ったということです。

今の時代だから表現できるものって何だと思いますか?

たとえば1990年代くらいまでは、名のあるデザイナーがデザインしたものがえらい、希少なものを持っている人がすごいみたいな空気が強かったと思いますが、2000年代初頭頃にそれがフラットになって相対化されたと思うんですよね。おじいちゃんから譲り受けた名もなき湯飲みとかの方がもしかしたら価値があるかもしれないという気運が高まってきたと思います。
それから20年近くたって、今はすべてが等価になったというか。デザイン史のアイコンみたいなプロダクトも、拾った棒切れとか鉄屑でも取り合わせによっては同じくらいの価値が生まれるかもしれないし。

そうですね、今の方がフラットに見ることができるのかもしれないですね。

80年代、90年代のこれ、という懐かしさで持ってくるわけでもなく、最新のデザインとして持ってくるわけでもなく、今より前のものは、それかもしかしたら、今のものも含めてすべて並列に受容されるなんじゃないかなと思うんですよね。
だから今回のスタイリングでは、個々の物が意味の上では並列で、ヒエラルキーから自由であるというところが、2020年代のイデーが提示する在り方として相応しいのかなと意識しています。

今回、カメラマンの白石さんと組んだ理由があれば教えていただけますか?

白石さんとは元々プライベートで会う機会も多く、OUTBOUNDの世界観にも親しんでくださっているという下地があって。
一度雑誌の企画でご一緒したとき、自分がスタイリングするときに大事にしている部分と、彼が切り取るポイントが近いと感じました。彼自身もモノにまつわる本を出していますし、モノが好きなんだと感じていました。そしてモノそのものだけじゃなくそれを取り巻く空気感も大事にする写真家だと思っています。それが今回一緒に組むのがいいなと判断した理由です。
ぽかぽかした明るい感じというよりは、少しひんやりとした雰囲気にしたかったので、白石さんならそれを表現してくれると思いました。実際にやってみて、彼に依頼してよかったなと思います。

最後に、小林さんにとってイデーらしいってどういうものですか?

そうですね…こうあってほしいな、ということで言うと色気じゃないですかね。それか、情緒というほうがあっているかもしれません。
自分がかつて憧れていたイデーの世界観からはそれを濃厚に感じていました。そういうのって、匂いたつような、気配のようなものだと思うんです。でもそれって、効率や再現性だけを追求していくともしかしたら切り落とされてしまうかもしれないものでもありますよね。

  • Interview: Tadatomo Oshima (IDÉE)
  • Photo (Interview): Naoki Morimoto (IDÉE)