BOTE & SUTTOのカタログのための撮影でお料理を担当した料理研究家の長尾智子さん。
撮影中BOTE & SUTTOを使いながらお料理をしていた長尾さんに、器と料理の関係や食卓についてのお話などを伺いました。
器自体に世界感が出すぎているものや、装飾がふんだんに施されているもの、可愛らしいものを用いるのはあまり得意ではないという長尾さんにとって、BOTE & SUTTOはどんな印象だったのでしょうか。
「きれいな形をしていると思いました。そしてとても渋いデザイン。ろくろを用い、手から生まれた陶器の器だからこその雰囲気や奥行きがある。一見素朴に見えますが実は独特な個性を持つ器だと思います。」
このBOTE&SUTTOを食卓の定番アイテムとして、どんな料理、どんなシチュエーションでも活躍させるのは案外むずかしいのだろうか、という思いが頭をよぎります。
「BOTE & SUTTOは格好いい器。器には使うほどに親近感がぐんぐんと芽生えるものや、思っていたよりずっと生活に馴染んでいく器というものがあります。BOTE & SUTTOはそういう器でもあると思います。」
BOTE & SUTTOは、デザイナー深澤直人さんの「益子焼らしさとは何だろう?」という問いかけから始まったものづくりです。ざっくりとした益子の土のテクスチャー、ぼってりした厚み、おまんじゅうとお茶にもケーキとコーヒーにもよく似合う柔軟さ、そういったたくさんのエレメントが込められています。ひょっとしたらこれらいくつも混じり合ったエレメントが、BOTE & SUTTOの懐の深さを生んでいるのかもしれません。
「実際に使用してみて、BOTE & SUTTOは料理を生かす質感と形を持っていると思いました。器に料理を生かす量感があれば、料理を整えて盛りつけることが苦手という方でも、普段の料理を見栄え良く盛りつけることができます。並白と黒の色や、ボテッとした形とスッとした2つの形も、あまり難しく考えずにあれこれ混ぜて使えるタイプの器ではないでしょうか。」
「中でもボール状のものは、重さ、ボリューム感、色などあまり細かいことを気にせず、少し大雑把に盛るくらいで大丈夫。重さや厚みという陶器独特の良さを生かした使い方を楽しめるとよいですね」
「葉物だけをたっぷり使ったグリーンサラダは、あえて器に対してたっぷりと盛ってみるのもおもしろい。ごろんとした野菜やコロッケのように形が決まっているものは、フォルムが大切なのでお皿全体に対して載せ方を考えます。料理を器に載せた時に余白をつくるか、あるいは隙間なく埋めてしまうかにルールはなく、その時の料理と量によって決めるのが一番。」 という長尾さん。
BOTE & SUTTOは黒と並白の2色展開です。器には実にさまざまな色がある中で、黒色でかつ光沢がある器というのは、その器自体の存在感が強いため、扱うのが難しい印象を持つ方が少なくないかもしれません。
「たしかにそうかもしれません。ただ一方で濃い色の器は、フレームがはっきりするので器と中身の料理とのコントラストがつきやすく、その関係を楽しむことができます。写真のように丸く大きなチーズをひとつ大胆に載せるか、種類の違う小さなチーズを2つ3つのせるか、使う度にそんなシンプルな使い方で十分だと気づくはずです。」
器を買う時の基準は何でしょう。この器だったら何の料理が合うだろう?あの料理にぴったりな器はないだろうか、という視点で器を探したり選ぶことの方が多いかもしれません。
でも長尾さんは、たとえばご飯を食べるためのお茶碗とか、これは和食用、これは洋食用というように用途によって選ぶのではなく、その器が持つ「個体の良さ」を見ると言います。
「私の料理の基本は、シンプルで素材の素朴さを生かすという考え方です。料理は素材ありき。繰り返し作っている料理でも、量や季節によって視点を変えて、今日はあちらの器に盛ってみようとちょっとした思いつきで器を変えてみるわけです。
そうすると、食卓の景色が少し変わるので、その変化を実感すると、料理と器の関係がより面白く、自由になるのではないでしょうか。」
「個体の良さ」を持つ器は、日々食卓を準備するわたしたちに自由な発想を呼び起こし、いつもと違った楽しい時間を引き出してくれるものなのかもしれません。
フードコーディネーター。レシピのみならず、調理道具、器、食文化全体を大きくとらえた独自の世界観が支持を集める。『暮しの手帖』『クロワッサン』などの雑誌連載や著作、商品開発等でフードコーディネーターとして活躍。著書に『食べ方帖』(文化出版局)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など多数。