Scandinavian Craftsmen

Crafted Modern - Artist Interview -

Melissa Sammalvaaraメリッサ・サマルヴァーラTextile artist, Finland

フィンランドのヘルシンキをベースに活動するテキスタイルアーティストのメリッサ・サマルヴァーラ。
フィンランドの織物「リュイユ」を独自の感性・世界観で制作している彼女は、パートナー、ロシアから迎えた保護犬のミーレとともに市内のアパートに暮らす。ギャラリーのようにたくさんの作品を飾っている彼女の自宅に伺い、話を聞いた。

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現在テキスタイルの作品をつくられていますが、どのような経緯でアーティストに?

2011年にアアルト大学に入学して2019年に卒業したのですが、大学ではインテリアを学び、大学院からテキスタイルに転向しました。本格的に作品づくりを始めたのは2020年です。それからリュイユという織物を作り続けています。

テキスタイルに転向されたんですね。それはどうしてですか?

インテリアを学んでいたとき、空間におけるテキスタイルの重要性を感じ、もっとテキスタイルについて学びたくなり専攻を変えました。プリントデザインなどいろいろなことを学びましたが、その中でも糸など素材により興味を持つようになって。素材の質感や感触に惹かれていました。そんな中リュイユにも出会い、もっと新しいアイデアや可能性を探り、自分らしいやり方で表現してみたいと思いました。

「リュイユ」という織物はフィンランドの伝統的なものですか?

フィンランドでのリュイユの歴史は古く、ソリに乗るときのカバーや寝具などの実用的なものから、結婚祝いなどのお祝い用までたくさんの用途があって、現在も時代を超えて受け継がれています。ノッティングの技法で作られていて、その技術自体は世界にもあるものですが、この表現はフィンランド独自のものです。地域や作り手によって織りのスタイルや模様が異なっていて、私たちの社会の多様な文化が垣間見えます。
フィンランドが独立したときにもリュイユは重要な役割を果たしていて、多くの国民的アーティストやデザイナーが私たちの国のアイデンティティを纏ったリュイユをデザインしました。

織物にはたくさんの種類がありますが特にリュイユに惹かれるのはなぜですか?

私がリュイユに最も魅力を感じるのは、その多様性と自分自身を表現する方法です。
リュイユの結び方には多くの技法があって、特に現代のリュイユではさまざまな方法で変化させたり、組み合わせたりすることのできるたくさんの素材が存在します。リュイユは3次元で、その本質が流動的なので柔軟な彫刻のようなものと感じます。だからより創造的で自由で伝統的なリュイユの概念を再定義する機会にもなっています。リュイユを蒸して加工しているときはいつも他のアートフォームでは味わえない、生き生きとした個性が見えるような気がします。

作品を作る上で、どんなことを大切にされていますか?

リサイクルの毛糸を使うのがポイントです。不要になった素材に新しいチャンスを与えるというか。そういった視点はとても大切です。特にインダストリアルなテキスタイルの分野で仕事をしているとね。環境にもかかわってくるので、忘れ去られていた糸を使おうと決めました。私が作るアートでもう一度新しいチャレンジを与えてあげたかった。それがまず一つありますね。

これまでにはどのような作品を作ってこられたのでしょうか?

大きなものから小さなものまであります。今まで作った一番大きな作品はパリにあるフィンランドインスティテュートにあるものです。2x3mくらいの大きさでとても時間がかかりました。でもとても素敵なんですよ。自分の作品をあの場所に展示できるのはとても光栄で私にとって意味のあるものでした。

オーダーを受けて作ることもありますか?

はい、ありますね。そういうときはスケッチをすることもあります。普段はスケッチすることはあまりないんです。ときどきかしら。お客さまがいるときはディスカッションする必要があるので、どんな色にするか聞きながらデザインをスケッチします。

普段はあまりスケッチしないというのが驚きです。

始めるときのやり方は色々違いますが、例えばフリーマーケットでとてもいい糸に出会ったらこれを使ってみよう!と思うこともあるし、制作が進むうちにどんどん変わっていくこともあるので、あまりプランできないこともあります。

感性のおもむくままに、という感じですね。メリッサさんがインスパイアされるものは何ですか。

それは難しい質問ですね。
アートはもちろん私の仕事でもありますが、同時にインスピレーションをもらっているものでもあって。いろいろなミュージアムに行ったり、全然違った形のアートを見たりして、吸収したり影響を受けたり相互作用というか、そういう感じもあります。おそらく周りの友人やアーティスト達からも影響を受けていると思います。

作品は一つ一つ名前が付いてますよね?

ほとんどの作品名は自然に関する名前がついています。自然もインスピレーションの源ですから。
名前(テーマ)を最初に決めてから作り出す場合もありますが、作る過程で発想する場合もあります。

現在の作品スタイルに行き着くまでの経緯は?

もともとアブストラクトなアートが好きで、あとは森の苔とかそういった植物相も好き。伝統的なリュイユも好きだけど、それは私のスタイルではなかったのでそこから発展させていきました。
例えば伝統的なリュイユでは毛足を長くすることはないですが、私はフリンジを長く残したりあまりカットしすぎなかったり、あえて異素材の糸を使ったりときにはキラキラした糸も使ったり、というように自分の好きなものや感性を交えてだんだん独自のスタイルを確立していきました。

イデーは「Life in Art(日常芸術)」をテーマに、日々の中でどのようにアートを愉しむかを提案しています。日本ではまだアートについてハードルが高いと感じられているところがあるのですが、暮らしへのアートを取り入れかたついて、何かアドバイスはありますか?

実はフィンランドでも結構日本と同じようなシチュエーションはありますが、アートは美術館だけで見るものではないという感覚はだんだん定着しつつあって。例えばイデーのようなお店だったり、フィンランドにはローカルというギャラリーショップがあるんですが、そういった場所の影響で人々がアートを家に取り入れようということになってきていると思います。
あとフィンランドだとアートは代々受け継いでいくものという感覚があるかもしれないですね。アートとデザインの境界っていうのも曖昧なのかも。

手仕事(クラフト)とアートの境界はどうですか?

もはやその境界線ははっきりしていないと思います。どこからが手仕事でどこからがアートでというのは、頻繁にディスカッションされていますね。フィンランド語でもアートと手仕事がひと続きになった単語があって、私の作品もそのカテゴリーに入るのかもしれません。コンテンポラリーデザイン(アートとデザインの中間)と呼ばれることもあります。昔はapplied artと呼ばれていて、よく呼び方が変わるので、いつも定義しなおされているコンセプトなのかもしれませんね。

最後に、フィンランドは幸せな国として有名ですが、メリッサさんが毎日を幸せに暮らしていくための秘訣を教えてください。

やりがいのある仕事があって、自分のしていることに意味があると感じられること。仕事だけじゃないですね。自然の中に身を置くこと、とか。たまにバランスを取るのは難しいけど。家で仕事をするとなかなか難しくて。でもスタジオにドアがついていると、それを助けてくれるんです。仕事しないときはこのドアを閉める。場所を区切ることで切り替えをしています。
あと週末は休むようにしています。とてもいいアイデアが浮かんだらすぐに取り掛かりたくなってしまうけど。犬と散歩に外に出ていくことも良いリフレッシュになっていますね。

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Melissa Sammalvaaraメリッサ・サマルヴァーラ

2019年にアアルト大学を卒業後、ヘルシンキやフィンランド国内、パリなどさまざまな場所で活動するテキスタイルアーティスト。フィンランドの伝統的な織物「リュイユ」を制作する。織物、結び目、タフティング、編み物などさまざまな技法を用い、リサイクルされた素材からほとんどのアートピースを手作業で作る。自然は彼女にとって大きなインスピレーションであり、それは彼女の甘美な作品やエコロジー、セカンドハンドの素材へのこだわりに表れている。彼女が作り出す作品には伝統的なリュイユの概念を覆すアーティスティックな世界が広がっている。テキスタイルを使ったスローで几帳面な仕事は、常に変化し続ける現代社会へのステイトメントとも言える。

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