Life in Art アートのある暮らし

自然の造形美をカタチに外山翔

空間デザイナーとして活躍する一方、アーティストとしての顔も持つ外山翔さん。主にアクリルや大理石などを用いてさまざまな実験を繰り返して偶然性を持った作品を生み出しています。

「素材を限定せず、素材の組み合わせや飾ったときの空気感、そんなことを想像しながらものづくりをしています」

素材への飽くなき探求心を持つ外山さんに、創作に対するスタンスやものづくりの背景を伺いました。

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アーティストとしてのスタート

2012年に独立し、クライアントワークとして空間の仕事をしてきました。
展示会の会場作りや店舗設計、ショーウィンドウのデザインやディスプレイなど、クライアントの商品をよりよく見せるために、それに合った空間作りを提案をしていく仕事です。そのため、最終的にアウトプットされる形や素材は、商品やイベントにより異なってきます。

元々手を動かすことが好きだったので、一点もののオブジェなどをショーウィンドウ用に作ったりしていて、これをもっと作品として作り込んだら面白そうだな、ということもあって。そんな中でお客さんの為のデザインではなく、自分が本当に好きなモノってなんだろう、ということを徐々に考えるようになり、自分の興味あるものを深く追求していきたいと思うようになりました。

学生の時にイデーの面接を受けにいったことがあります(惨敗)。当時イデーがインテリア業界を引っ張っていて、憧れのデザイナーもいて、SPUTNIK PADというイデーのお店に足繁く通っていました。そして卒業したばかりの頃、とあるきっかけでイデーで働けるチャンスがきました。イデーの家具を1/5の模型で精巧に作るというプロジェクトや、デザイナーズブロックというインテリアのイベントの為にFRP製のイス兼照明を作ったり。

その時にイデーの照明などをデザインされていた、ヤン・テサールさんという彫刻家が来日し、FRPの作業をする僕の隣でチェーンソーで木を削り出し、圧倒されたのを覚えています。リアルな作品制作の現場や、毎日ヤンさんをアテンドするイデーのスタッフの方を見て、もっと視野を広げないとなと痛感し、働いていた時間はその後の歩みに大いに影響しています。

遊びと上品さ

空間デザインと作品制作は、考えるスタートが真逆です。空間デザインは例えば展示会の場合、お客さんの商品がどうバイヤーさんに伝わり、それがどう店頭で飾られ、どう購入されていくかということを考えて提案をしています。一方で作品制作の場合は、単純にやりたいこと、使いたい素材や作りたいものなど、自分の中"WANT"を形にしていきます。

共通することは、「品があるかどうか」「真面目にやりすぎていないか」。
正統派の二枚目ハンサムなデザインではなく、ちょっと遊びや抜けが欲しいなと思っているので、それを意識することで頭が柔軟に保たれ、違う視点、違う文脈のものを取り入れられたり、応用が効くと思っているので、空間の場合も作品作りの場合もそういったことを考えています。それと「無理や無駄がない」ということや「循環していく」という考えは常にあります。

商業的なデザインの仕事は本当にスピードが早く、店舗を数年で改装したり、3〜4日間の展示会の為にこれだけ作ってこれだけ捨てるの!?という現場を見てきて、作るって正義なのかなと思うことも多々あります。だから展示会ではその後もずっと使えるものやリメイクできるものを提案するようにしたり、アトリエでも空間仕事で使った素材や余った素材で構成しているものもあります。作品作りで余った端材を別の作品に入れ込んだりして、自分の中で地産地消の循環ができているものもあります。

作品の素材について

自分は何かひとつの素材や技法に特化した作家や職人ではないので、正しいとされている使い方でなくてもいいと思っていたり、その時々によって表現するものが違ってもいいと思っています。

例えば大理石というのは、駅やビルなどあらゆるところで使われていますが、どれもきれいに加工され、敷き詰められて表層しか見えない使われ方が一般的です。でも大理石って加工前のものはとても荒々しく、自然の作り出した模様や地層があって、カットする部分によって模様も変わります。その断面を見せたり、石の力強さや存在感を最大限に引き立てるという想いで使用することもあります。

専門の人間ではないが故に、違うアプローチができたり、実験的にものを作りやすかったりという、探究心を持てるのかなということはあると思います。

  • acrylic

    アンティークマーケットが好きで古いものを買い集めていたこと、透明素材が好きだったことからスタートしたアクリル封入シリーズ。時を止めたようにその瞬間を形にしたアートピースは、想像のつかない化学反応が作品の一部となります。光を通したときの影も美しいオブジェです。

  • marble

    アクリルと相性が良く魅力を感じていた大理石を作品へ昇華させたシリーズ。きれいな表面、敷き詰められたタイルのようではなく、荒々しさや時をかけて作られた模様、力強さを活かしつつ、少し手間を加えることで作品にしています。

  • MINE ORE

    「大理石の模様やパターンを自身で作る」という試みを形にした一輪挿し。"MINE (マイン)"は鉱山、"ORE (オーレ)"は鉱石という意味。地層や模様を自分なりに出してみようと、石好きが高じて生まれたアイテムです。2020年9月にパリで行われたエキシビジョン"1000vases"で高評価を獲得しました。

惹かれるもの

ずっと意識しているのは、偶然性や経年変化・化学反応など、自分では作り出せないものを作品に取り入れるということです。狙い通りの形や色になることも大事ですが、作っている自分も想定外の結果を見て楽しみたいという想いは強いです(笑)。

いくつ作っても変わらないきれいさや均一的なものより、変化していく美しさだったり、一点一点表情が違う、というもののほうがより愛着の持てるものになる気がします。不完全なものや制作途中のような荒削りなものなどに価値を感じるので、そういったものを表現できる素材が好きですね。

大切にしていること

この活動をスタートした頃は、単純に自分が好きなものを追求していこう、クライアントワークではできないことをやろう、というスタンスでした。何度か個展を重ねる中で、来てくださる方に作品を見てもらって話をするということがとても貴重な時間で、また次の制作意欲にもなっていきます。それで個展の際はできる限り在廊して、制作の背景や意図を伝えたりお話するようにしています。興味を持ってくださる方が何を気に入ってくれて、家のどこに飾りたいとか、作品がその方の暮らしの一部になっていく話を聞くうち、作って完成ではなくて、見てもらったり飾ってもらったりして完成するのだなと思うようになりました。

もちろん自分の"WANT"を追求していくベースはありますが、制作の過程で誰々さんが好きそうだなとか、こう飾ってほしいなとか、その作品が彩る人や空間を想像して作ることも多くなりました。それは自分にとって外と繋がるコミュニケーションでもあるので、とてもよいアプローチだと思います。

そして制作において自分自身が作ることを楽しんでいるか、ということはとても重要です。以前子供と家庭菜園で育てたブロッコリーの花をアクリルに閉じ込めてランプシュードを作ったのですが、そういった生活の一部が作品となっていっていくストーリーは、作品作りにおいて理想だなと思います。

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外山翔
Atelier matic外山 翔

2012年にmaticとして独立。空間デザインをベースに店舗設計や展示会などイベントの会場構成やディスプレイデザインを手がける。その傍ら2017年より自身のアート活動をAtelier matic(アトリエマティック)とし、主に大理石やアクリルを使用したオブジェなどの展示も精力的に行う。