2021年秋にスタートしたウェアシリーズ、H& by POOL。
minä perhonenの皆川明さん監修のもと、
日本各地の生産地で行き場をなくした残反・残糸・はぎれを、
ものづくりの技術とクリエーションによりリファイン。
素材にフォーカスしてつくっていくことを大切に、生産者とお客さまを繋ぎ、
生産背景も丁寧に紡ぐウェアシリーズです。
これまで皆川さんとIDÉEが取り組んできた、ためてつなげるものづくり"POOL"のことや、
H& by POOLが生まれるまでの舞台裏をご紹介します。
素材をためて循環させる
それをつづけること
POOLのプロジェクトがはじまったのは2015年秋。それは偶然のできごとで、大量のものづくりをするそばではぎれや端材がたくさん「たまっている」ことからはじまりました。それから皆川さんといっしょに、行くあてのない素材やあまったものを活かしいろいろなものづくりをしてきました。サステナブルであるということよりも、モノとして楽しくて素直に良いと思えるものをつくっています。
POOLは、素材をためる(POOL)、そしてもう一度循環させる(LOOP)という言葉遊びで名づけたプロジェクトです。
私たちはいつも「POOLにとって一番よいことは、このプロジェクトができなくなること」と話しています。あまっている素材がなくなり、ためることもできず、POOLのプロジェクトができなくなる。それは無駄のないものづくりができている証です。 それでも目の前には行き場のない素材があまっている。そこに費やされた時間や労働も含めて大事にしたいという思いのもと、POOLのプロジェクトをつづけています。
「いまはサステナブルとかそういう言葉って当然だし、いずれ語らなくてもその行為はすべての産業にも浸透していくのだと思うけれど、それってモノがもったいないとか自然環境の問題だけじゃないなと思っていて。結果、暮らしに喜びが増えたよねというのが一番よいと思っているんです。モノや環境の保護だけというのではあまり長続きしなくて、暮らしが豊かになったよねというのがデザインでできることかなと思うんです。」と皆川さんは語ります。
暮らしをよりよいものにするために。POOLのプロジェクトをつづけていくことに疑いはありません。
POOLのプロジェクトを始めてから幾年か経ち、日本を見渡してみたとき、ものづくりの生産地では質の良い素材が少しずつあまっていることが見えてきました。ロットの都合や、ほんの少しの色違い、予期せぬオーダーキャンセルなど、さまざまな都合であまってしまった素材。
それを知ったとき、POOLとして私たちに何かできないかと強く思いました。その素材をつくる彼らのものづくりの技術をもっとたくさんの人に知ってもらうべきだと感じました。
生産地であまったわずかな、とてもよい質の素材を集めて洋服づくりをする。
そうして生まれたのが、H& by POOLです。
素材を形に組み合わせる
H& by POOLの洋服づくりは、一般的なものと少し違います。洋服づくりはまず生産計画をたて、何枚作るということを決めますが、H& by POOLにはそれがありません。あまっている素材を使うので、何枚しかつくれないという限りがあるのが面白いところです。
日本各地の生産地であまっている素材を集めるところからはじまります。素材を活かしてできるだけ手を加えずにつくっていく。形は同じだけど素材はさまざま。そうすることであまっている素材を無駄なく使うことができます。
それは料理に似ていると皆川さんは言います。その日ある食材を組み合わせて美味しいものにするように、素材に合いそうな形を選び組み合わせることでひとつの洋服をつくりあげています。
デザインのコンセプトは嗜好性が強くなりすぎないこと。プレーンなシルエットであることや、ワンサイズで誰もが包まれるサイズにすることで、暮らしに広く取り入れやすくしています。
名前に込めた想い
H& by POOLは「ハンド バイ プール」と読みます。
つくり手である工場の人の手と、着る人の手をつなぐ。
頭文字のHにはそんな想いが込められています。
- Human
- 人と人がつくる。
- Heart
- ものづくりに心を込める。
- Help
- 誰かの助けになる。
- Hold
- 失われゆくものを守る。
- Happiness
- つくり手にも、使い手にもしあわせを。
- Hand to Hand
- 手から手へ、想いを届ける。
- Heritage
- 伝統をかたちに。
日本の産地とつながる
H& by POOLの服
どこかクラシカルな雰囲気を帯びたギャザーワンピースは、ウエストから広がるギャザーが印象的。たっぷりとした生地と細かなギャザーが織りなすシルエットが美しく風に揺らぎます。
このワンピースをつくるのは、東北のとある縫製工場。たくさんのミシンが並ぶ場所で、ひとつひとつ職人の手で丁寧に縫い上げられています。多くの工程をよどみなくこなす無駄のない手技には、日本のものづくりの確かな技術が感じられます。
しかし多くの生産が海外にシフトされ、立ち行かなくなってしまう工場は後を絶ちません。失われゆく技術や伝統を守るためにも、この地でものづくりを続けていく意味があるのです。
たくさんの人の手を経て完成したワンピースに袖を通すとき、つくり手から丁寧に紡がれてきた物語に想いを馳せずにはいられません。
山形県の老舗紡績所で長らく行き場を失っていた糸をつかって編まれたニット。ホールガーメント(ひと針も縫わないで編みあげる方法)により、縫い目のごろつきがなく、美しいシルエットですっきりとした着心地です。
紡績所を訪れるとまず目にするのが古い機械を操る職人の手。古いがゆえの柔軟性を活かし改良をした機械で糸を紡ぐ。その技術と想いに私たちは強く共感をしました。
多くのメゾンブランドのニットを手掛ける彼らの倉庫に眠っていた、とても質のよい、そしてわずかな量の糸。H& by POOLのニットはその素材を活かしつくりつづけている形です。