IDÉE - New Direction #4 - Autumn~Winter 2023

"Handscapes (of Themselves)"

Scene01

    • Handscapes (of Themselves)

      アーティストやデザイナーが過ごす、アトリエに思いを馳せる。

      創作の現場でもあり、生活をする場でもある、
      クリエイティヴィティさらには人となりが現れる手業の風景。

      壁やイーゼルに飾られたアート、キャビネットに置かれたオブジェ。
      絵を描くために座る椅子、自然光が差し込む床。
      何気なく置かれたものや生活のシーンに、その人自身の美学を感じとる。

      自らで手を動かし、思考しながら暮らしを彩り、創造する。
      ジャンルやスタイルの枠を超え、自分にとって心地良い関係性を築くこと。
      家は人の暮らしであり、人生そのものであり、その人自身。

Scene02

IDÉE - New Direction #4 - Autumn~Winter 2023

"Handscapes (of Themselves)"

  • Styling - Yusuke Takeuchi
  • Photo - Sayuri Murooka
  • Direction - IDÉE
Profile.
Yusuke Takeuchi / 竹内優介

1993年東京都生まれ。インテリアスタイリスト黒田美津子氏に師事。2023年よりフリーランスで活動。雑誌・広告などのヴィジュアル制作をはじめ、店舗ディスプレイや住宅メーカーモデルルームのディレクション・スタイリングを手掛けるなど、インテリアや空間に関わる幅広い活動を行う。

Sayuri Murooka / 室岡小百合

1998年横浜市生まれ。青山学院大学卒業。2022年7月よりSIGNO所属。16才よりキャリアを開始し、その後作家活動を始める。日々の一瞬一瞬で見落としてきた美しさや、記憶の奥にしまっていた風景を捉えることを目指して創作活動を行っている。ファッションブランドや雑誌、クリエイターなどさまざまな人や媒体とコラボし、作品を発表し続けている。

Special Interview

ファッションやインテリアなどの広告写真を中心に独自の感性で活躍する気鋭の写真家、室岡小百合さんにアートディレクターの森本とPRの新川が話を聞いた。

森本:前回・今回とスタイリスト竹内さんと組んでいただき、一緒に仕事をしてみて個人的に写真家としてのセンスがすごく好きだなと思って、インタビューさせていただきました。まず写真家になったきっかけをお伺いしたいのですが。プロフィールを見ると、かなりスタートが早いですね。

室岡:はい。カメラを買ったのが高校生のときで、友人の影響でアルバイトで溜めたお金で中古のカメラを買いました。ずっとファッション雑誌が好きだったので、遊びながらエディトリアルを真似て、友達と撮りはじめました。幼馴染がそのときモデルを目指していたので、そのお手伝いみたいなことをしていました。部活みたいな感じで。

それからもう一つ。父親が小さい頃に亡くなっていて、私が生まれた時点で余命があまり長くないと自分でわかっていた父が、定点観察のような形で日常を記録としてたくさん撮りためていってくれたんです。写真でも映像でも。私が大きくなって見返すうちに、父が残してくれた記録を見ていると、彼の見ていた世界を追体験しているような気持ちになった。それで「写真ってすごいじゃない」って。自分がいなくなったとしても、記憶を繋げるというか、父と会話しているような。このメディアが持っている力に気づいたときから、何かが変わり始めた気がします。

最初にカメラを持ったときにも、撮りながら「自分向いているな」ってなんとなくそういう感覚もあって、これを仕事にしたらいいと感じていました。それが写真家になったきっかけなんですけど。あとはその時期にちょうどInstagramとかが盛り上がっていたので、ネット経由で写真を見つけた人が、仕事をくれました。

森本:今の時代ならではですね!現在は作家活動はどのようなことをおこなっていますか?

室岡:作家活動はそんなにしていないんですが、クライアントワークが中心です。でもクライアントワークと作品活動が繋がっていたいなという気持ちとしてはあって、仕事の延長線上で撮ってみたり、撮影の合間にちょっと響いた瞬間を残したりしています。それからわかりやすい活動で言うと、一昨年アーティスト・イン・レジデンスで2週間くらい地方に滞在して制作したんですが、そこで観察したものを個展として発表しました。家にまだ作品があったので持ってきたんですが、撮ったものの中で一番メインの代表作、青い写真。全く同じ場所から毎日3〜4回、ドローンで撮影して定点観察をしていました。

これも自分の原点にあった父とのコミュニケーションみたいなことを繋げて撮っています。父は今頃私のことを何処でどう見ているんだろう、みたいな感じで。目に見えなくなった存在に想いを馳せて、自分が鳥になって撮りたい、鳥の目で撮影できたらいいな、と。時間が限られていたその場所で、ドローンという選択肢を使って、人間の目では絶対見られない景色、ドローンでは何か超越した、人間の手から離れて見える世界、みたいな考えで撮影しました。

森本:とても美しい写真ですね。
ちなみに室岡さんの好きな写真家やアーティスト、映画や音楽でも何でもいいんですけど。自分に影響を与えている人や作品ってありますか?

室岡:いっぱいありすぎて、すごく悩みますね。もともと私の育ちは芸術一家みたいな、アートに詳しいほうでもなかったのですが、以前から自由が丘のイデーによく来ていて。インテリアや家具を見ていたら、ふとアート作品が売ってたり。それで目に止まった作品の中で最初に見つけたCy Twombly(サイ・トゥオンブリー)は影響を受けているかもしれないです。まず名前が可愛いなって(笑)。最初はなぜ彼の自由なタッチの作品が評価されているのかわからなくて、子供が描いたような抽象的な作品がどうしてこれだけずっと長く愛されているんだろう、と考えていました。でもなんかこういう自由な感じが、彼自身が人生の中で紆余曲折を経た上であるんだとわかって、少しずつ深みを理解できるようになりました。彼が描く詩的な余白みたいな何かに、私は撮影するスタンスとして影響を受けています。
撮影するときに、完璧なものを求めて画角をきちっと止めて追求するっていう自分がいるんだけど、そこをあえて崩す。何も考えないで撮る。なんて言うんですか、マインドの切り替え方をこういう作家さんからたくさん学びました。

あとは最初の頃ロンドンの芸術大学の写真コースを受講したときの先生が、すごく好きでした。Nicol Vizioli(ニコル・ヴィッツィオリ)というイタリア人の女性アーティストさんから撮影の技法を直接教わって。作品だけじゃなくてその人の女性像、女性フォトグラファーとしての佇まいが格好良くて。高校生の夏休みに行ったんですけど、いちからスタジオメイキングも暗室も教わって、みんなで批評会があって。

森本:いい経験ですね!
前回と今回撮影してもらって感じたのは、フレーミングとか結構確信がある感じで撮ってるというか。取捨選択が早いっていうか。なんだかもう自分の中で決まってる、見えてる感じがすごく印象的でした。

新川:私もそう思います。私たちはいろんなカメラマンさんと撮影することが多いですが、カメラマンさんによっていろいろな撮り方があるなと。室岡さんの場合、たくさん撮ったとしても「これがいいと思うんですけどね」みたいなこともおっしゃっているなと思います。割と全部委ねられることもあるので。

室岡:どうなんですかね?でも今回、全てが既に良かったんです。自分の撮り方のせいで対象の良さが引き立っていないとかでセレクトから外したりはしているんですけど、(取捨選択が)早いとはよく言われます。多分それは自分が優柔不断だから、ある程度のところで決めないと沼に入ってしまうみたいな恐怖があるのかもしれない。
企画の趣旨が "New Direction" で、打ち合わせの時点で竹内さんから、いわゆる雛形写真みたいなのは求めてない、みたいな話もあったので直感的に撮っていくほうがいいんだと思って、結構スナップ的に。

森本:直感的っていうのが、早く感じたのと決断力がある感じがした理由かな。

室岡:現場の人数が多いとみんな悩んじゃうから、ある程度自分から思いを最初に伝えた方がはっきりしていい。こっちがいいとかそう思わないとか、言ってもらった方がいいんです。さっき話したイタリア人の先生もそうなんですよ、スパスパって。迷わせないというか現場であんまりモタモタさせない格好良さ、そこは日々努力してます(笑)。

森本:その先生が理想像というのが無意識である?

室岡:そうかもしれないですね。悩むときはめちゃくちゃウダウダしますけど。

森本:今回、イデーの家具とアートやヴィンテージを組み合わせた空間を撮っていただいてどうでしたか?

室岡:今回、どこからがイデーでどこからがイデーの商品じゃないのか境界線が全くわからないので、誰かの家にいるような感覚で。素敵なのはもちろんなんですけど、ヴィンテージも混ざっていたじゃないですか。それがすごくいいなと思って。普段撮影するときにはやっぱり商品を意識するのが一番大事ですけど、それを意識しなかったことが良かったです。空間にちゃんと溶け込んでいて、家具自体も浮いてないというか。

森本:普通にカタログ写真とかを撮ると、どうしてもティピカルに自社商品を並べてしまうので、そういった感じとは違うようにしたかったというか。それ自体が今回の方向性で、それらが溶け込んでアンサンブルを成す。という暮らしのイメージや空気感を作りたかったので、それを感じてもらってすごく嬉しいです。

室岡:よかったです。撮りながら大丈夫かなって思ってもいたんです。竹内さんが持ってきたものもいろいろあったので、特に撮影時の大島さんのあのジョークのくだりが、さらによくわからなくなってしまって(笑)。あれどこだっけ?どれが作品?みたいな。

森本:今までのやり方を一回ゼロにするというか、違うやり方でやってみたくて。自分たちではあまり思いつかない新しい視点とか。あと口を出しすぎないとか。僕らとは世代が違う若い人に参加してもらって今までと違うものが生まれたらいいなという感じで。それがすごくうまくいったのかな。
そしてここ最近はアートを感じる豊かな暮らしというものを特にイメージしてやっていました。
室岡さんにとっての「暮らしを豊かにする」ってどんなことですか?

室岡:最近、猫を飼ったんですよ。あと今まで避けてきた大きい植物を置くようになって。毎日のルーティンがあって、朝起きて植物にお水をあげて、猫にご飯をあげてトイレを掃除して。何かを育てるのが結構楽しいな、って思います。以前は家で犬を飼っていたんですけど、自分でお世話する立場じゃなくて世話される側だったから。自立して初めて世話をすることに対して喜びを感じていて。タイムリーな話で言うと、それでいま生活が明るくなったと思います。

森本:植物も動物も生活に潤いが出ますね。

室岡:私は家具も好きだし本も好きだし、結構ものを買っちゃうんです。それが家の中で置きっぱなしになって、忙しくて存在を忘れちゃうことって結構あるんです。でも育てる行為をしはじめたら嫌でも目につくじゃないですか、その存在が。命じゃなくてもインテリアみたいなものでも頻繁に手をかけて、自分の心の動きに合わせて位置を変えたり、それがすごく大事なんだろうなって気づきました。

あ、森山邸って行ったことありますか? 西沢立衛さんが設計を手がけたところですけど。美術館レベルのコレクションがすごい量あって。それでも整頓されていて心が湧くような感じがします。その方も毎日動かしたりして手をかけているそうで、影響を受けています。

森本:先ほども少し話が出ましたが、ここ(IDÉE GALLERY AND BOOKS)に、よくいらしていたとか?

室岡:近くによく行っていたカメラ屋さんがあって、フィルムの現像を出しに行く際の待ち時間に、角曲がったらすぐイデーだから、3階めがけて一直線で来て(笑)アートブックのコーナーをあれこれ見てました。それをセレクトされているのが森本さんだったんだなって思って、すごく感慨深いです。セレクトされているものの中からいろんなことを知っていったから嬉しいです。

森本:僕も今回一緒に撮影できて良かったです。ぜひイデーで作品展もやってください!

  • Interview: Naoki Morimoto (IDÉE), Natsu Niikawa (IDÉE)
  • Photo (Interview): Naoki Morimoto (IDÉE)