IDÉE - New Direction #3 - Midsummer 2023
余暇を過ごすために、北へ。
休暇は身体を休めることやレジャーを楽しむことだけでなく、暮らしを整える大切な時間。
忙しい日々の中で鈍ってしまった自分の感覚を取り戻すこと。
丁寧なものづくりと高いクオリティによって受け継がれてきたヴィンテージデザイン、
若き才能とエネルギーを感じるクラフテッド・モダン。
美意識ある文化から生まれた品々と共に暮らすことで、
これからの豊かな暮らしにヒントや気づきを与えてくれる。
IDÉE - New Direction #3 - Midsummer 2023
1993年東京都生まれ。インテリアスタイリスト黒田美津子氏に師事。2023年よりフリーランスで活動。雑誌・広告などのヴィジュアル制作をはじめ、店舗ディスプレイや住宅メーカーモデルルームのディレクション・スタイリングを手掛けるなど、インテリアや空間に関わる幅広い活動を行う。
1998年横浜市生まれ。青山学院大学卒業。2022年7月よりSIGNO所属。16才よりキャリアを開始し、その後作家活動を始める。日々の一瞬一瞬で見落としてきた美しさや、記憶の奥にしまっていた風景を捉えることを目指して創作活動を行っている。ファッションブランドや雑誌、クリエイターなど様々な人や媒体とコラボし、作品を発表し続けている。
インテリアスタイリストの竹内優介さんは、建築を学んでいた大学時代にインテリアスタイリストの黒田美津子氏に師事し、2023年に独立。雑誌や広告、店舗などのさまざまな空間演出を手がけている。
今回スタイリングを担当してくださった竹内さんに、イデーディレクターの大島と、アートディレクターの森本が話を聞いた。
大島:まずは、竹内さんがスタイリストになろうと思ったきっかけから教えてもらえますか?
竹内:父が建築の仕事をしていて、なんとなく小さいころから写真集を眺めていたり、暮らしにまつわることっていうのは身近でした。
それで大学で建築を学んでいた20歳の頃、先輩の手伝いをしていた時にたまたま黒田美津子さんに出会って、インテリアスタイリストという仕事があることを知りました。
自分には建築は扱うものとしてのスケール感が大きすぎるかもと思っていたり、もともとものが好きだったということもあるんですけど、黒田さんに付いて学んでいくうちにスタイルを問わずいろいろなものに触れることができる仕事っていうところがすごい楽しいな、天職かもしれないなって思ったんです。それがきっかけですね。
大島:自分も少し似ていて、大学では都市計画を学んでたんです。そんなときお宅訪問のTV番組が好きでよく見ていて、建築家が建てた一軒家ですって出てきたときに、その建物に対して実際に住んでいる人達の選んだ家具や暮らしにギャップを感じることが多くて。家を建てることがゴールになっているというか、本当はスタートであるべきなのに。もちろん家も重要だけど、毎日使うような家の中を心地良くするモノやコトに興味を持って。それでインテリアの仕事に進みました。
竹内:そうですよね!同じことを思います。
建築や設計に比べて、生活に身近なインテリアを提案する人って全然いなくて、もったいないなって感じてました。
大島:竹内さんは今30歳ですよね。もう親子くらい年が離れてますけども(笑)
僕と森本くんは90年代後半にイデーに入社して、青山の骨董通りにあったイデーショップのカフェで最初働いていました。その当時日本では「ライフスタイルショップ」と呼ばれるような複合的に暮らしを提案するブランドってあまりなくて、先駆けてお店を展開していたり、さらにマーク・ニューソンとかジャスパー・モリソンとか今となっては有名になったデザイナーとも仕事をしていた時代で。それから25年くらい時が経って、店舗も増えて現在に至るんですけど、30歳の竹内さんはいつ頃イデーを知りましたか?
竹内:この仕事を始めたのが2013年くらいですが、その頃には仕事柄イデーを知っていたという感じです。最初は親しみやすい家具を扱われているなという印象でした。けど2016年頃に藤城成貴さんと作られていたRIB Seriesを見て、そこから過去にマーク・ニューソンとか倉俣史朗、フィリップ・スタルクなどの方々とコラボして商品をつくられていたことを知ったんです。それでデザインの地肩の強さがあるんだなって思っていました。
大島:竹内さんに今回スタイリングをお願いしたのは理由があるんです。ブランドって時を経ていくとともに、関わるスタッフも年齢を重ねていくんですよね。そんな中、新しい世代の人達ってどんな美意識を持っているんだろうと。ライフスタイルも違うし興味のあることも違うだろうけれど、そういった違う考えも取り入れたいなって思ってお声がけしました。
森本:やっぱり今までの価値観のままでものを見がちになることって多いので、新しい風が欲しかったんです。そこに勢いのある新たな才能を見つけた!って感じでしたね。
大島:あと男性のスタイリストにお願いしたことって、これまではたぶんないんですよ。そもそも男性スタイリストが少ないっていうのもあるけれど、竹内さんはイデーが表現したいなっていうニュートラルな雰囲気を持っているなって。今回イデーが提案するディレクションをうまく表現していただける方は竹内さんかなって思いました。
竹内:いやー、選んでいただいてありがとうございます(笑)。
大島:今回のディレクションでイデーが提案したいことなんですけど、やっぱりパンデミックがあって環境が変わったなって思うんです。自分のことで言うと車の免許を取ったり、箱根にも家を持ったり。なので前回(#2)に引き続きライフスタイルの変化がテーマで、ヨーロッパの夏のバカンスに思いを馳せてみました。ヨーロッパの人にとって夏のバカンスってビッグイベントなんだけど、その割には普通に過ごすんですよ(笑)。日本のバカンスって特別で普段しないことをするってイメージなんだけど。北欧とかだとサマーハウスでいつもと同じように日々を過ごすんですよね。
そういった文化に触れて、休みの過ごし方って消費的に特別なことを楽しむだけじゃなくて、日々の延長線上で自分にとって良いことを積み重ねることも豊かなことなんじゃないかなって。
森本:あと森のひんやりした静謐な空気の中で余暇を暮らすことを提案したいなって。
そんな思いを込めて竹内さんにご協力いただきました。
竹内:実は、今回そのアウトプットが本当にできたのかなって気になってて(笑)。
森本:自分のいつもの空間イメージとは少し外れている感じもあって、でもそれがまさに自分たちが求めていたことで。特に家具の配置とか自分ではあまりしない感じで、なるほどとも思ったり。フォトグラファーの室岡さんの絶妙な切り取り方も相まって、新しさと清々しさがすごく出ていて良かったです。
あと幾何学的なフォルムの組み合わせを特に意識されていましたよね?僕もグラフィックデザインをする上でそういったことを気にしているので共感したし勉強にもなりました。
竹内:ありがとうございます。ちょっと外しというか、いつもと違うものは意識していました。
今回ヴィンテージ家具がたくさんあって、イデーの製品とそうでないものが混ざることで、新しい価値を見出せたらなって思っていました。それに実際の暮らしでは、1つのブランドでインテリアを構築することってないじゃないですか。あとロケーションもスタジオではなくてディレクションテーマに近い郊外の一軒家なので、実際に近い雰囲気でできたなって思います。
大島:竹内さんは休暇とか、リフレッシュしたいときってどのように過ごされているんですか?
竹内:好きなことを仕事にしているので休日は趣味をしたいとかはなくて、オンオフの区切りはなかなかつかないですけど、デザインとは離れたいなってときもあって。そういったときは何も考えずにいられる自然のあるところに行きますね。と言っても江の島とか伊豆とか近場ですけど。
大島:森本くんは?
森本:日々のリフレッシュってことで言うと、犬を飼うために郊外に引っ越したので犬と過ごしたり地物の野菜を食べたり。家庭菜園もしてるし料理をするのもすごく好きで。僕の中では料理とデザインと音楽をつくることって考え方が似ていて。あと犬の散歩をしながら鳥のさえずりを聴くのが好きで、そういったことに癒されます。一方遠出では自然のあるところより、東京とは違う都市の異文化に触れて刺激を受けることがリフレッシュになるかな。
大島:僕は今まで自然に触れたいって思ったことはあまりなかったんです。でも箱根に家を持つようになって森を眺めるとか鳥の声を聴くとか、静かな環境の中でただ過ごすだけでもリフレッシュするなって感じていて。今回のディレクションと同じで、ただ場所を変えてぼーっとするだけでも気分が変わるなと。
大島:竹内さんのご自宅はヴィンテージマンションの一室をセルフリノベーションされていますよね? どのようなもの選び、工夫をしているのでしょう?インスタグラムとかで見ましたが、割と統一感がありますよね?
竹内:そうですね、基本的に好きの間口が狭いなって思っていて。今までミニマリストっぽくみられることも多かったんですけど、それは24歳で一人暮らしをして、当初あまりお金がなくてものが買えないっていうのもあって。でも最近はフリーランスになって、仕事に使うだろうって目線でも選んだりしてるとものが増えますね。今まで欲しいなって思っても我慢してたものが手に入れられるようになって、今楽しいです。置くところがないくらいですけど(笑)。
大島:置くところがないの、すごくわかります(笑)。
ちなみに、もの選びで竹内さんがいいなって思うものの基準っていうか、共通するものってありますか?
竹内:難しいですが強いて言うのであれば、彩度が低いっていうのはあるかもしれないです。もの自体に魅力を感じてもあまり奇抜な色は家には置かないかな。あとまだ価値が定まってない、例えば若手のデザイナーのものとかアノニマスなものとかでも、自分がいいなと思うものを集めたいなって思っています。
家にあるものを振り返ってみると、数理的とか幾何学的なフォルムとかも好きですね。構造的に理にかなっているとか、裏付けのあるものが多いように思います。それとは逆にクレイクラフトのような根拠のない有機的なフォルムにも惹かれます。素材感も意識させられるところがあって、ガラスでもセラミックでもウッドでも対象はあらゆるものですが、その素材自体の良さが引き立っているものに魅力を感じます。
大島:なるほど。さっき竹内さんにスタイリングをお願いした理由として新しい世代の人達ってどんな美意識を持っているんだろうと思ったという話をしたんですけど、イデーは「美」に対する価値観は人それぞれで、自分にとって美しいと感じる「もの」や「こと」は何かを考え、創作していくことこそが美意識だと思っています。なので今の話はすごく共感できるなと思って。竹内さんも国や時代性、有名無名に関係なく、多種多様な価値観の中から自分が良いと思うものを選び取っていますよね。
少し壮大な話になってしまいますけど、何を選び何を大事にして、どのように生きていくか自分なりに考えて美意識を持つことで、より良い豊かな暮らしが訪れると思うんです。そういったことをイデーはこれからも提案していければなと思います。