国産の杉の丸太をまるごと使用したシェルフ。
山から切り出された大きさの異なる丸太は個性豊かな家具の材料になります。
日本人が古くから身近に親しんできた杉の木の優しい温もりを生活の中でより感じられる家具。
主役ではないけれど、暮らしを支えるエキストラとして活躍する唯一無二のシェルフです。
IDÉE GARAGE PRODUCTS 第1弾となるエキストラシェルフのデザインを手がけたのは、イデーの定番家具のデザインも手掛けるBouillon。イデーのアップサイクルプロジェクト IDÉE GARAGEにも参画し、役目を終えたモノに、彼らが得意とするアプローチでさまざまなプロダクトを生み出しています。
Bouillonのデザイナーである服部さんに、アップサイクルへの想いやエキストラシェルフの製作秘話を聞きました。
まずは、Bouillonが活動する上で大切にしていることを教えてください。
素材から考えることが多いのですが、素材の表面的な美しさもそうですが、もう少し奥行きのある素材選びを意識しています。使いづらいものとか予期せず使われずにいたものとか、同じ素材でもそれぞれ背景が違っていて、そこに反応しながらデザインすることがものすごく重要かなと。かつ、それだとクリエーター目線が強いので、それをいかにデザインの中に込めながら違和感なく生活に取り入れるか、その距離感に気を付けています。
Bouillonとイデーが初めてご一緒したのは六本木店で開催したIDÉE GARAGEでしたね。
そうですね。10年くらい前にミラノサローネで初めてお会いした後に、イデーの皆さんとお話しする機会があって。そこでIDÉE GARAGEっていう企画がありますが、数日後に群馬に打ち合わせに来られますか?制作期間がほとんどないですけど展示できますか?と提案していただいて。僕は当時26歳で名古屋から来たのでこのまま何もなく帰るわけにいかないと必死でしたから、「はい、できます!」ってお返事しました(笑)。
懐かしいですね(笑)。その後も GARNITURE Series などでもご一緒することがありましたが、イデーとの共通点を感じることはありましたか?
ご一緒したいくつかのプロジェクトの中には、うまくいったものもあればいかなかったものもありましたよね。そういった失敗もあると思うんですけど、これまでの価値観だけじゃないものさしで物事をとらえて、それを生活の中にフィットするよう形にすることにトライするイデーの考え方に共感しています。アートはアートとしてあるんですけど、鑑賞するだけではなくて使っていくことにも重きを置いていることが共通点なのかなと思います。
服部さんはどんなものからインスピレーションを得ているのでしょう?
僕は基本的にまず手を動かします。模型を作ったり簡単なスケッチももちろんしますが、何より先に素材自体に触ることをすごく大事にしています。触っていくうちにだんだん素材の持つ雰囲気が伝わってくるんです。「Bouillon(ブイヨン)」という活動名に繋がるのですが、ブイヨンを作るとき、野菜を刻んで煮込んでからもう少し塩を入れようかなとか少しずつ素材を足していって味見しながらだんだん味の輪郭が出てきますよね。デザインってこれにすごく似ていて、レシピ通りではなく素材のうまみを活かしていく。そういう意味でBouillonという名前にしているんです。
Bouillonにはアップサイクルの視点を持ったものが多い印象なのですが、今世界的に取り上げられているサステナブルについてはどう感じていらっしゃいますか?
学生時代、僕の師匠である教授の授業は、ほとんどが古いものを拾ってきてそれをリデザインする内容でした。よく古いものが好きなんですかと聞かれますが、特別好きなわけでもなくて、まだ使えるものがあったらどうやって使おうかと考えるのが学生時代にもう刷り込まれているんです。サステナブルという言葉が今出てきていますが、あるものを使う精神が元々身についているので、いつもやっていることがこの言葉に当てはまっているという感じですかね。
普通のデザインとアップサイクルでは視点を変えていますか?と聞かれることも多いんですけど、そこの視点を変えないことがアップサイクルでは大事なことだと思います。何%リユース素材を使用しているかが重要視されたりしますが、例えば80%使われていてもデザインに魅力がなくて、それを量産しても使ってもらえず捨てることになってしまうなら意味がないので、永く使っていくためには優れていたり気に入るデザインであることは大切だと思います。
服部さんのフォルムに対する感覚の源流って何でしょう?以前影響を受けたとおっしゃっていたアアルトですか?
多分デザイナーではないんです。これまでの記憶の中に残る、触ってきたものや自然の現象、感情とか。ものの形ってすごく感情に触れると思うんです。アアルトを好きなのは、このような僕の感覚がアアルトの作品からは自然に感じ取れて、自分と相性が良く感じるからかもしれません。
そういった背景がある中で、丸太とスチールという異素材を組み合わせたエキストラシェルフを今回共同で製作したのですが、改めてどういったコンセプトか教えてください。
ある製材所で丸太の端材がたくさん転がっているのを見て、これどうされるんですかって聞いたら、地域の方が持って帰るとのことで。良いことだなって思ったんですけど、丸太ってそのまま床やラグの上に置くとささくれが刺さったり床が汚れたり重たくて持ちにくいとか、ちょっと雑な感じがなするなと思ったんです。じゃあどうやったら使い易いだろうと考えたら、スチールが頭に浮かんできました。丸太は粗い印象が強いのでそれを抑えるために、緩衝材の役割として太めのスチールパイプを組み合わせて生活の中でバランスが取れるようにしました。最初に考えたのはスツールで、そこからシェルフに発展しました。
私たちはその試作品を見て共感しプロダクト化を実現しました。試作品では端材が使われているのですが、今回は杉の間伐材を採用しましたね。
もちろん完全に行き場を失っている端材で作れればベストなのですが、そこに行きつくまでには課題がたくさんあって。でもコンセプトは変わっていないです。
私たちはものづくりの現場に転がっている価値がないとされる材料に興味を持ちますけど、現場にとってはそれを使うことは本当に手間がかかるし、売上げの肝にはならなかったりします。これまで築き上げた技術やノウハウには関係ないところに急に興味を持たれても困ってしまうという現場の声はものすごく理解できるんです。それを実現するにはものづくりの現場との関係性が大切で、まず1回一緒に作ってみて、その中で価値観とか考え方を共有していくのが重要だと思います。端材が使えないからと諦めず、一旦形にして世に出して皆さんに使ってもらえるようになれば、次に目指す場所に辿り着けると思うんです。
「エキストラシェルフ」という名前にも、その想いは込められていますよね?
そうですね。ここまで間伐材とか端材の話をしていますが、実際そこは重要視していません。間伐材を扱う現場でよく聞くのが、間伐材でもそうでなくてもみんな同じ木であって、間伐材だから良い悪いではないっていう話で、それにはすごく共感しています。だから端材や間伐材であることは商品名には入れていなくて。メインアクターがいれば、それを支えるモノや人がいます。ここにある風景を作り上げるのはメインアクターだけではなくて、それを支えるエキストラもいて成り立っている。素材が間伐材かどうかはあまり関係がなくて、暮らしの中で丸太は丸太として見て欲しいんです。
このシェルフをどのように使ってもらいたいですか?
自由に置きたいものを置いて使って欲しいんですけど、僕は低いほうを家でTVボード的に使っています。子供たちはシェルフの上に物を飾って遊びますが、丸太と丸太を跨いで置かずに、丸太1つ1つを大事にステージとして使ってくれている感じで、それはそれで面白いなと思います。
あと和室にもきっと合うだろうなと。
今回、丸太は杉材を使用していますが、日本人に刷り込まれた素材だと思うんです。日本建築に使うために戦後に杉やヒノキをたくさん植えたんですけど、森が混み入りすぎると災害が起きたり森の健康が保たれないので、それを間引く過程で間伐材は生まれています。そういった身の周りにあるもので暮らしを作っていくことが一番自然で、日本人の暮らしが本来持っているポテンシャルに近いのではないかなと思います。
ふだん見慣れている もの・こと・ひと に丁寧に関わることで、そこに溶け込むたくさんの良さが見えてきます。その良さ一つ一つに「うまみ」があります。素材のうまみを活かした料理のように、シンプルでありながらくせになる「うまみのきいた暮らし」を提案します。
名古屋芸術大学スペースデザインコース卒業後、家具メーカーに勤務。その後大学助手などを経て、2016年にデザインスタジオとしてBouillonを設立。
2013年にスタート。ものを作る際に発生する端切れや残反などのマテリアル、廃材、機能に問題はなくても事情により販売がむずかしい「B品」など、行き場を失ってしまったように見えるものの魅力を、視点を変えたり、遊び心のあるクリエーションで再発見し、新たな価値を加え創り広めていくプロジェクトです。