Scandinavian Craftsmen

Crafted Modern - Artist Interview -

Enriqueta Cepedaエンリケータ・セペダCeramic artist, Sweden

スウェーデンのストックホルムに仲間達と工房を構える、陶芸家のエンリケータ・セベダ。指先で土と繋がり、最小限の道具と手で作品を生み出していく。大地のようにおおらかな彼女の作品が生まれる過程や、暮らしにおけるアートの存在などについて話を聞いた。

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どのような経緯で陶芸家になったんですか?

元々はストックホルムのオステルマルムで1998年までギャラリーを運営していました。陶芸にはずっと興味があり、その頃ギャラリーで知り合った陶芸家が主催するワークショップに参加しました。彼女は考古学者でもあり、美術館の所蔵品のレプリカを制作したりしていて。そのワークショップでは手びねりで作品を作り、使った道具もひょうたんのカケラのみで、土に触れた最初の瞬間から魅了されました。それから馬糞で作品を覆い、火を焚いてゆっくりと長い時間かけて焼成しました。その過程がとてもエキサイティングで。作品を取り出してみると、燃料だった薪は炭になり、そこに触れていた部分に火が複雑な模様を生み出していて。そのプリミティブな行為とプロセスに魅了されました。それから少しずつ陶芸作品を作り始めたんです。最初は上手くいかないこともありましたが、大きなお椀とか日本のお茶碗とかもたくさん作りました。

お茶碗も作っているんですね。日本からインスピレーションを受けることもありますか?

もちろん。日本はとても美意識のある国。私はスウェーデンのお茶振興会の会員でもあるんですよ。お手前を披露できる腕はないけれど、その会で楽焼のマイスターがお茶碗を作る美しい映像を観ました。壺を作るという行為は、人間に本来生まれ持って備わっている何かと深い関係があるのではないかと思います。いつの時代でも調理をしたり、穀物やワイン、水を貯蔵したりして使ってきたでしょう。だから壺のフォルムは普遍的なのだと思うんです。

作品のことをお聞きします。アートオブジェのようでとても素敵ですね。

私もそう思っています。壁に絵を飾るように、花器を空間に飾って楽しんでもらいたいです。

お花を入れて使ったりしてもよいのでしょうか?

そう聞かれることがとても多いです。もちろんできますし、一輪挿しとしても使ったら素敵かもしれません。でもお花をたくさん飾りたいのであれば、ガラスの花器のほうがいいと思っています。その場合の主役はお花ですからね。

ご自身の作品はアートオブジェなので、ということですよね。

そうですね。私は彫刻的なオブジェと捉えています。日常使いのものではないということですね。でも好きに使ってもらいたいと思います。

制作にはどのくらいの時間がかかりますか?

1つの作品を完成するには1週間を要します。まずは指先で土と繋がり、そこから得られるものを探りながら少しずつ作り上げています。不規則性のバランスをとるために、瞑想するときのように流れに身を任せて作っていきます。ベースを作りそこに紐状にした粘土を重ねていく。一部分を成形し、カバーをかけ様子をみながら乾燥させ、程よい状態になったら外側にテクスチャーを入れ、内側を削る。またその上に陶土を少しずつ重ねていきます。

エンリケータさんの家にもアートはありますか?

はい。美しいものを周りに置くということは心地よく過ごすために必要なことだと思っています。アートは私が小さいころからずっと大切なものでした。以前、人が周りの環境からどのように影響されるか、という調査をしたことがあります。例えばアートの展示会に行くとか、ダンスを観にシアターに行くとか。そういった行為はジムに行くのと同じ効果があり、とてもポジティブなパワーをもらえるのです。
人は取り巻く環境からとても影響を受けるもの。気分良く心地よくいられるために、美しいものを身の回りに置くことはとても大切なことですよね。

スウェーデンではアートを日常で愉しむ仕組みができていますよね。

公共アートに予算を1%以上充てるというルールがあります。そのためのアートアドバイザーもいて、公共の建物にアーティストの作品が飾られていますね。

スウェーデンは幸福度が高いと言われていますがどう思いますか?

福祉が充実しているから幸せなんじゃないかしら。他の国では家族が中心でしょう?ここではそこまで中心じゃないと思います。例えばラテンアメリカの国で誰かが病気になったら、家族や親戚がすべて医療費を払わなければならない。でもスウェーデンでは病気になったら税金でケアしてくれる。自分が自分でいられるんです。高い税金を払うことになるけれど、それが安心を生み出しているんだと思います。そういった安心があると、幸せをより感じることができるのではないかしら。

製作する上で大切にしていることは何ですか?

コントロールされない、ということ。それが大切だと思っています。内なるものから出てくる、ということです。これでこの形は作れませんか?と聞かれてもお断りしています。私はフォルムは自然と生まれるものだと思っています。「この高さで、こういったものが2つ欲しい」と言われて作るのではなくて。そうなるといつも失敗してしまうんですよね。アートは自分の内面から滲み出てこなければならないものだと思ってますから。

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Enriqueta Cepedaエンリケータ・セペダ

スウェーデン、ストックホルムを拠点とする陶芸家。地中海・ギリシャ・エジプトといった地域の古代の陶器からも影響を受けているほか、削ぎ落とされ不完全なものに美を見出す。日本の美意識などからも影響を受けている。土本来の色や性質を利用して釉薬は使わず、最小限の道具と手で作品を生み出していく。成形後、石で磨いて光沢を出したり、表面を削りシャモットを露出させ質感のあるテクスチャーを施したり、焼成後にオーガニックの蜜蝋で磨く(この手法はネイティブ・アメリカンであるプエブロ族から影響を受けている)こともある。荒々しい部分と滑らかな部分のコントラストが生み出すある種の緊張感、揺らいだり完全な対称でないフォルム、生命力が感じられ大地のようにおおらかな彼女の作品は、調和がとれ居心地の良さを纏い、それが作品の美しさに繋がっている。

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