Life in Art アートのある暮らし

色彩豊かな作品に魅せられて、私たちは千葉県にある竹村良訓さんの工房を訪ねました。
お気に入りのハーブティーを入れてくださった器は、竹村さんの作品。形も色もさまざまで、決まった形に縛られない自由な作品作りが垣間見えます。

「釉薬の多様さは無論僕の特長なのですが、“釉薬の研究が先行した制作”のイメージでなく、あくまで“形に対する色のフィット”の追究で、その結果いつのまにか色が増えまくった、という感じなのです。」

素焼き後のまっしろな器をじっと眺めて、色を発想出来たものから服をあてがうように釉薬を掛ける。
独特の作風は意外にも「形」へのあくなき追究心からくるものでした。

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竹村良訓

竹村 良訓たけむら よしのり

1980年千葉県生まれ。陶芸家・修復家。
木工と漆芸を学びながら陶芸に出会う。文化財修復を修め、古陶芸の研究・復元制作も努めながら、漆芸技法の応用による、陶磁器・漆器修復にも携わった。現在は、陶芸家・修復家として活動する傍ら、2008年に開設した陶房「橙」で指導も行っている。

粘土が自分に合っている

竹村さんは、中学生の頃から理科が好きで、なかでも特に金属の化学反応には目がなかったそうです。高校3年生の頃までは、ひたすら理系を突き進み、大学も理工学部を目指していましたが、あるとき美術の先生に勧められて美大を目指すことに。
「美術の授業は好きで、先生に目につけられていたのかもしれません。」

デザインや建築にも興味を持ちつつ、美大では木工クラフトや漆塗りを学び、その傍らサークル活動で陶芸を始めます。その後大学院に進んで金継ぎなどの保存修復作業を技術として習得しながらも、形づくることへの興味は失いませんでした。

なぜ陶芸だったのかを問うと、やはりここでも「形」へのこだわりが垣間見えました。あるときはっきりと粘土が自分に合っていると感じた瞬間があったそうです。「形、サイズを自在に変えることができる。いい加減に作れるんですよ、そこが好きなんです。」

なるべく効率的じゃないことをしたい

もともと何にしろ懐古的なものが好きで、その当時のスタイルはひとことでいえば「渋い感じ」だったそう。
あるとき情緒豊かな色感と曲線美が特徴のルーシー・リーや北欧陶芸家ベルント・フリーベリーの作品を目にし、衝撃を受けます。「自分もこういったものを作れないものか!」と好奇心がムクムクと湧き上がりました。ただ、その頃は頭に描いたイメージを思った通りに形に落とし込むことができず、ひたすらに練習を重ねたといいます。そうして研鑽を積んでやっと自由自在にイメージを投影した形を作ることができるようになったといいます。

「厳しく攻めていくと、焼き物は失敗するんです」とにこやかに放ったひとことに、竹村さんの作品への姿勢が凝縮しているように感じます。ひとつひとつ違う、色、形―。

「形にしても、色の調合にしても、”これ”という枠を決めず失敗を楽しんでいます。なるべく効率的じゃないことをしたい。」

こだわりと感覚の即興人

陶芸の過程の「けずり」という作業をする際に、湿台(しった)を使います。湿台はありものもあれば一つを使いまわすことも多いそうですが、敢えてその時々で異なる生乾きの湿台を使ってけずりの作業を行うことで、ふたつとない形をつくるのが竹村さんのスタイル。

道具ひとつをとっても、らしさがにじみ出ます。左利き用にろくろを左右バランスよく力をかけられるように改造したり、木工品を参考に削り用の工具を作ったり、作業台やサイドテーブル、作品に携わるものはほとんどが竹村さん自身の手づくりです。リズムをつかみやすいから、ろくろの機械音も欠かせないといいます。

釉薬の調合は、化学好きが高じて独学で研究してきたそうです。通常は五色ほどの釉薬で事足りますし、色を調合する作業は緻密さを要します。人によっては面倒くさい作業となりうるため、色を決めてスタイルを確立するのもひとつです。しかし、竹村さんにとっては色の化学反応こそが面白み。個々の形にフィットする色を選ぶには、「いくら色の用意があっても足りない」と感じてきたため、結果的に色のバリエーションは60色を超えました。色の組み合わせはまだまだ無限大に広がります。

まっさらな形から鮮やかな色を想起するために、赤土ではなく磁器を選び、「色」の服を着せる、と竹村さんは表現します。釉薬をくぐらせたり、2重3重と重ねたり、飛び散らせたり、筆や霧吹きで色をつけたり、あるいは釉薬の溶け具合を調整しながらデザインしたり。色の調合は再現できるようにテストピースをつくり続けていますが、実際は温度や湿度によってツヤ・濃淡が変わるため、釉がけ(ゆがけ)は「即興的」な作業だといいます。

綿密な作業をしている竹村さんですが、釉薬の調合についても繊細な形体についても、感覚的な側面を強く感じ、不思議な感覚になりました。「自身ではごくごくシンプルなことをしていて、単純にその中で面白いものがどう生まれるか、を考えているだけです。」

難しい形体にもどんどん取り組んでいきたいと話す竹村さんの姿を目の当たりにして、これからどのような「形体と色彩の組み合わせ」に出逢えるのか楽しみで仕方がありません。

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