Life in Art アートのある暮らし

TAGAMI呼吸するように描き続ける

30歳から描き始め、75歳になる今も描きたいものが尽きることはないという。
テーマ、意図、説明や理解をことごとく省き自由闊達に表現した作品を、毎日平均3〜7枚ほど描き続けている画家、田上允克(たがみ・まさかつ)さん。
イデーの家具とコーディネートしても圧倒的な存在感で常に私たちを魅了してくれます。人知れず我が道を走り続けている田上さんの作品を1人でも多くの方へ伝えたいという思いで、私たちは折にふれ展示会を開催しています。
今回も展示会用の作品をセレクトするため、わたしたちは山口県にあるご自宅を訪ねました。

TAGAMI

田上 允克たがみ まさかつ

画家。1944年山口県生まれ。 大学で哲学を学んだ後、29歳で上京。
偶然入ったアトリエで絵を描くことの楽しさに取り還かれて以来、ほば独学で絵を学びグループ展や公募展にはほぼ出品せず、心の向くままただひたすらに絵を描き続け、生家にある納屋を作品で埋め尽くし続けている。

作品取り扱い店舗:イデーショップ 自由が丘店イデーショップ 六本木店
詳細は店舗まで直接へお問い合わせください。

周辺を田畑に囲まれた静かな田園風景の中に建つ田上さんのご自宅兼アトリエは、150年以上前に建てられたという大きな日本家屋。畑で野菜を育てながら、のんびり自然とともにある暮らしをされています。

玄関でお出迎えしてくれるのは、カラスよけに置いているという田上さんの彫刻作品の猫たち。近所の方が庭の剪定をしたときにもらった木片で製作したそう。

田上さんは1944年山口県小野田市の農家に生まれました。大学で哲学を学んだものの、何にも興味がもてず、映画を見ても、海外にいっても、意見というものが一切ない人間だった、といいます。仕事にも就かずただ家にいた20代。当時は高度成長期の真っ只中、田舎の小さな町では稀有な存在だったことでしょう。

そんな中、田上さんは29歳で上京します。新聞配達の仕事に就いて間もないある日、偶然入った目黒のアトリエ(鷹美術研究所)で、絵を描くことの楽しさに取り憑かれたそうです。そのまま就いたばかりの仕事を辞めて、以来40年以上休むことなく毎日作品を生み出しています。

日々数枚ずつ描き続けてこれまでに生み出した作品数はざっと4万点以上。描くことにしか興味がなく、描くことに没頭するあまり、展覧会で発表する機会も少なく、膨大な量の作品が田上家の蔵に収められています。

「片付ける暇があったら描いていたい。」

展示会用の作品を選ぶのはまるで宝探しのようです。 今回は田上さんもおすすめの、大きな板に描いた作品を選びました。

「今も1日何枚も描いているんですか?」と尋ねると
「最近は手の運動がてら描いているよ。」
と照れながら笑顔で答えます。

昔は内面から溢れる創作意欲に対して、追い立てられるように作品づくりに没頭していたそう。アイデアが湧くスピードに手が追いつかないので、身近な紙に描いて構図を考え台紙に貼っていくというスタイルが多くなったといいます。

やがて追い立てられる感覚はだんだんと薄れ、描くことが日常の一部となった現在では、瞬間的に浮かんだものを思いのままに描けるようになったそうです。

なぜそこまで絵を描くことにのめり込んだのか、それは「わかる面白さ」だといいます。描くほどに「こういうことなんだ!」と理解していく面白さ。自分のためでも誰のためでもなく、ただ描くことに対する好奇心や探究心が、エネルギーを絶やすことなく、40年以上も手と感覚を突き動かしてきたのです。

作品は抽象画から漫画風なものまで多様。モチーフも人の顔、動物、線、記号とさまざまです。テーマやスタイル、意図も持たず、ただ内面からあふれ出るものをその瞬間瞬間、感じたままに絵の具で表現しているだけで、創作対象そのものへの深意はないそう。

またどの作品も絶妙な構図と独特の色彩が印象的で、不思議な魅力をそなえています。四角い紙の中に配置される人の顔や強い意志をもった線。たくさん色を使っていても美しくまとまっています。

絵を描きはじめたころは画集や展覧会を見ても、何がよいのかわからなかったそう。そこで田上さんは他の作品を見ずに数年間ひたすらデッサンに集中。そのうち頭の中でモチーフとなるパーツを意図した通り動かせるようになり、デフォルメした人物の絵に対してこれ以上描くと人間ではなくなるな、という感覚がふっとわかるようになったといいます。その後マチスやピカソの展覧会に足を運ぶ機会があり、作品の素晴らしさに衝撃を受けたそうです。誰に教わったわけでもなかったけれど、自ら手を動かすことで眼も育っていったようだと。純粋に描いて描いて、描き続けることでようやく辿りついた感覚なのかもしれません。

帰り際にご自宅の畑の桜を指す田上さん。
「あの桜は僕と違って名門の家柄『近衛家』の桜です。」
桜の名所、京都御苑(近衛邸跡)の枝垂れ桜の苗を譲ってもらって昔植えたそう。
「次は桜が満開になる時期に来てください、とても綺麗ですから。」

あらゆるモノやコトから解き放たれ、説明や意図もなくただ純粋にあるがままの素直さで無心に描き続け生み出された作品は、見る側に全てを委ねているかのよう。田上さんのあたたかな人となりが感じられる、健やかでのびのびとした作品をぜひ実際にご覧ください。

田上さんのご自宅兼アトリエでの創作の様子や、膨大な数の作品のごく一部を動画に収めました。不思議なエネルギーを秘めた田上作品の生まれる場所をご覧ください。

作品取り扱い店舗:イデーショップ 自由が丘店イデーショップ 六本木店
詳細は店舗まで直接へお問い合わせください。