「パルプアート」という表現に挑むアーティスト、望月佐知子さんをご紹介します。望月さんはかつて姉妹ユニット「mocchi mocchi」として制作していましたが、現在は個人の活動において、新たな表現手法に取り組んでいます。
パルプアートがどのようにして作られているのか、また新しい手法へ取り組むことになったきっかけや、アートそのものに対する想いなど、望月さんからさまざまなお話を伺いました。
作品ラインナップはこちらパルプアートとはどんなものでしょうか?
紙や和紙などの原料となる、パルプや楮(コウゾ)などで表現する作品です。紙は描くための支持体として使われることが多いのですが、それを描く道具として使って表現したアートです。絵の具やインクなどで描くように、パルプや楮などで描く手法といえます。
どのような経緯でパルプアートにたどりついたのでしょうか。
私はプリンターとして活動する恩師から手ほどきを受け、「mocchi mocchi」という作家名で姉妹でシルクスクリーン作品を制作してきました。かつて恩師の工房で、アメリカのケネス・タイラーというプリンターが設立したタイラーグラフィックスという版画工房で生み出された多数の版画作品をレゾネ*で見る機会があり、そこで目にしたパルプアート作品にとても興味を持ったのがきっかけです。
*レゾネ:目録、カタログ
姉妹で制作する中で、お互い個人の表現というものに取り組んでいきたい、という想いが出てきたことと、版画のプリンターである恩師が亡くなって工房の設備などを引き継がせていただくことになったのをきっかけに、自分がやってみたかったPapermaking art(パルプアート)に取り組もうと決めました。
「版画」という技法自体に対する自分の向き合い方が広がったこともあると思います。作家として版画に取り組むだけでなく、版画制作を通して「表現する・創る」という行為の場を提案したいとも考えるようになりました。京都に「printmaking studio PRESS CLUB」という工房を構え、版画についてのワークショップなどを行っています。ご興味のある方はぜひお越しください。
以前はシルクスクリーンという手法のみで表現していたのですが、いま個人で新しく取り組んでいる作品には、パルプアートと銅版画を組み合わせて表現しているものもあります。自分なりの版画表現の可能性に取り組んでいるところですね。
インスピレーションの源を教えてください。
版画という表現そのものに魅力を感じていて、固執している自分というものを「版」という媒体を通して濾過し、何か普遍的な要素を抽出してくれる、そんなふうに感じるんです。パルプ作品については素材としての紙の「質感」にとても惹かれています。
インスピレーションの源となるのは、偶然目にした「何か」。 紙の破片だったり、織物の模様だったり、雑多に置かれた本の山だったり。 私が惹かれている「何か」を、色や形や質感を通して表現したいと考えています。
パルプアートならではの難しさはありますか。
素材となるパルプや楮などを着色させる際に、濡れている時と乾燥した後では発色が全く違うので、自分の思い通りの色に表現するのに試行錯誤を繰り返しました。
作品を乾燥させたり、パルプや楮を流し込む型の制作にも時間がかかる点もあります。
なぜアートで表現をするのでしょうか。また望月さんにとってアートとはどんなものですか?
自分が感じた「言葉にできない何か」を作品を通して表現したいから、創作を通して自分自身の感性に気づくことができるからだと思います。
作品を作っていると何かを見つけたり、気づかされます。この「見つける」ということが作品創りだと感じています。
Masa Mode Academy of Art 卒業後、プリンター今泉氏からシルクスクリーン版画を学ぶ。
姉妹ユニット「mocchi mocchi」としてシルクプリント版画の制作、国内外の企業にデザインやイラストを提案。
その後師事したプリンターの設備を引き継ぎ、紙自体も表現の対象とし版画などを併用した作品を展開している。