Life in Art アートのある暮らし

陶芸家瀬川辰馬

情緒的な静けさ、美しさ

瀬川辰馬さんと出会ったのは2018年11月、二階堂明弘さんが主宰する「陶ISM」の会場でした。およそ100人の陶芸家の作品が並ぶ中で惹かれたのは、静かな存在感を放つ瀬川さんの作品。物事を深く思考し、一つ一つ丁寧に作品を生み出すその姿勢に共感し、さらに詳しいお話を伺いに東京千住の閑静な住宅地に構える工房を訪ねました。

瀬川辰馬

瀬川辰馬せがわたつま

陶芸家。
1988年神奈川県生まれ
2011年慶応義塾大学環境情報学部卒業
2014年多治見市陶磁器意匠研究所デザインコース修了
現在は東京と千葉の2拠点にアトリエを構え、制作活動を行う。

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(写真左)蔦に覆われたファサードが印象的な東京の工房。千葉にも工房があり2拠点で活動しています。

(写真右)制作中の作品や釉薬の原料などが整然と並ぶ工房内。

マチエールからはじまる器づくり

作品を作るうえで最も大切にしているのはどんなことでしょうか。

「何より重視しているのは、マチエール(=質感)のつくりこみです。意匠研究所に通っていた頃も、ろくろを挽いている時間より釉薬の調合をしている時間のほうが長かったくらいで。
陶芸は、大事に作り込んだ作品も最後は窯という他者へと手放します。自分が意図した通りにはなかなか焼き上がってくれない。でもそういう失敗の中にこそ、あたらしいヒントが隠れていたりします。」

瀬川さんの作品では錫白やチタン白、硫化銀彩などの釉薬を使ったものが代表的ですが、中には気に入ったマチエールを生み出すために、数年もの歳月がかかったものもあるといいます。魅力的なマチエールには、地道な研究の積み重ねがありました。

マチエールに似合うかたち

瀬川さんの作品はシリーズによってボディの厚みやエッジの効かせ方など、ディテールのつくり方が全く異なるものもあります。かたちはどのように決めているのでしょうか。

「自分にとって、かたちとマチエールは切り離して考えることが出来ないもので、魅力的なマチエールもかたちの選択を誤れば表面的なものになってしまうと感じています。そういう意味では、新しいかたちや自分にしかつくれないかたちを作りたいというよりは、それぞれのマチエールが喚起するイメージが最も自然に表れるようなかたちをつくろうと心がけています。」

  • チタン白

    チタン白

    赤土をベースにつくった生地に化粧土を何層にも重ね、その上に純白のチタン釉をかけた作品。下地の重なりむらが釉薬の表面に染み出すように現れ、欧州のアンティークのような雰囲気を生み出しています。

  • 硫化銀彩

    硫化銀彩りゅうかぎんさい

    表面に純銀を焼きつけ、硫化処理を施した作品。白や黄金色、深い紺碧など、表情はさまざま。長い年月を経たような力強いマチエールが引き立つよう、輪郭線だけが残るミニマルなかたちに仕上げています。

  • 錫白

    錫白すずしろ

    柔らかくトロッとした光沢のある釉薬が特徴的な錫白の作品。器に反射した光の美しさを効果的に見せるため、丸みを帯びたなめらかな曲面を多用した厚みのあるかたちにしています。

メディアアートから陶芸の道へ

陶芸家を志したきっかけについて教えてください。

「大学時代はメディアアートというコンピューターを使ったアート作品の制作を専攻していました。でも、予定されていた卒業制作展が2011年3月の東日本大震災とそれに伴う計画停電で中止になったんです。電気がないと自分の作品が動かせなかったので、それまで自分が作品と呼んでいたものがどれだけ多くの前提が整った上で成り立つものだったのかを、まざまざと感じさせられました。
それがきっかけで、素材と手さえあれば成り立つようなもっとシンプルなものづくりをしたいと考えるようになり、陶芸の道へと進むことにしました。」

器はちいさな棺

瀬川さんは日々の暮らしの中でどんなことを大切にしていますか。

「料理をしたり食事をするのは自分にとってとても特別な時間です。単に飲み食いが好きなだけというのもありますが、それ以上に生きるということは自分以外の動植物の命を糧とすることだという事実を忘れたくないんです。 植物にしろ動物にしろ、生きてるものを盛り付けることは出来ないですよね。そういう意味では、すこし言葉としては強いかもしれませんが、器はちいさな棺だと思っています。 それを使うひとの生活の道具であると同時に、そこに抱かれる動植物たちの命それ自体のためにあるような、そんな器を作れたらと願って制作しています。」

瀬川さんの作品に静かな存在感が感じられるのは、そんな想いがこもっているからなのかもしれません。

詩情ある作品づくりを目指して

瀬川さんのお話を聞いていると、考え方や言葉選びに奥深さを感じます。どのようなものに影響を受けているのでしょう。

「自分と同じようなジャンルの『ものづくり』というよりは、文学だったり映画だったりの『ものがたり』の方が制作のインスピレーションになっていることが多いです。 例えば須賀敦子の文章とか、アンゲロプロスの映画とか、そういう作品の持つ静かで透明度の高い詩情に触れたときの感覚が、作品づくりのための滋養になっているように感じます。」

自分のつくる器にもそういう詩情のようなものが伴って、器を手にとってもらったときに少しでもその空気が伝わればうれしい、と瀬川さんは言います。

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瀬川辰馬 作陶展

イデーショップ 六本木店では、陶芸家・瀬川辰馬さんの作陶展を開催します。
まるで美しい物語を読み終えたときのような
情緒的な美と静けさを感じさせる瀬川さんの器。
マチエール(質感)を大切にした作品には、手仕事の痕跡が穏やかに残り、
静かな存在感と澄んだ空気を思わせる佇まいがあります。
物事を深く思考し、一つ一つ丁寧に作品を生み出す
瀬川辰馬さんの世界観をせひご覧ください。

瀬川辰馬 作陶展
「情緒的な静けさ、美しさ」

期間:2019年9月6日(金)〜9月30日(月)
会場:イデーショップ 六本木店
作家在店日:9月6日(金)、7日(土)、15日(日)、22日(日)

瀬川辰馬 作陶展