太陽の国メキシコでは、約70の先住民(インディオ)が現在も暮らしています。
多くの先住民によって伝統を受け継いだ昔ながらのものづくりを盛んに行われています。
豊かな色彩感覚と自由なクリエイションによるアルテサニア(民芸品)は、多くの人を魅了しています。
そんな数ある優れた手仕事の中から、今回イデーはテキスタイルに注目。
バイヤー大島がメキシコの4つの州を巡って作り手の現場に赴きました。
実際に制作するところを見たり体験したり、話に耳を傾けながら、
暮らしの中で気軽に愉しめる、ラグ、クッション、マルチカバーなどテキスタイル中心に買い付けました。
背景にあるストーリーを知ることで、モノの魅力はもちろん、愛着も増し心も豊かになるでしょう。
メキシコシティから車で5時間。イダルゴ州のテナンゴ地方に住む、オトミ族を訪ねました。
オトミ族は山間部にある貧しい村に住んでいます。この地域には古くから岩絵・切り絵・刺繍・布づくりといった文化がありました。現在は代々伝わってきた岩絵に描かれた植物や動物のモチーフと刺繍の技術を活かして製品を作ることを生業の一つにしています。
カラフルな糸で自然の中の植物や動物、神話に登場する生き物などを表現したオトミ刺繍は、世界的にも有名です。オトミ刺繍はいったいどのように作られているのでしょうか。
訪れたのは、オトミ族のドーニャさんのコミュニティの拠点。ドーニャさんはこの地域の約70人の作り手の代表で、それぞれから集めたオトミ刺繍を販売しているそうで、たくさんのアイテムが集まっていました。作業所のような場所はなく、作り手がそれぞれの自宅で作業しているといいます。
実際に刺繍しているところを見せていただきました。
マンタという白い綿布に図案を描き、塗り絵をするように隙間なく刺繍を施していきます。とても細かく目が詰まっていて、裏に極力糸が出ない特別な方法で刺繍されています。一針一針丁寧に手で刺していくと、1メートル四方の刺繍で3〜4か月もの時間かかるそうです。気の遠くなるような作業ですね。
メキシコらしいカラフルな色使いから始まったオトミ刺繍ですが、インテリアに取り入れやすい単色の大判サイズの刺繍も人気だそう。しかし大きくなるほど制作時間がかかるので、あまり出回らないとのことでした。
大判サイズはベッドカバーやソファカバーに。面積の大きなアイテムなので、お部屋のイメージをガラリと変えてくれます。
小さめのサイズはタペストリーとして壁に飾るのもおすすめです。
刺繍された想像上の生き物や人物の表情を眺めながら、そこにどのようなストーリーが描かれているのか想像するのも愉しみのひとつです。
メキシコシティ中心部にあるシウダデラ市場(Mercado de la Ciudadela)。この市場には100件以上の店が軒を連ねています。民芸品の問屋街で、メキシコ中の民芸品が集まります。お土産を探しに来る人も多い場所で、掘り出し物が見つかりそうな予感。
市場の中心の広場には、メキシコならではの切り絵で作ったガーランド、パペルピカドで赤、緑、白のメキシコ国旗カラーに彩られていました。今どこにいるのかわからなくなるほどたくさんの店で賑わうなか、目的の店を探します。
探しているのはトナラの陶器。ハリスコ州グアダラハラのトナラ地方で作られる鳥や猫、太陽や月をモチーフにした陶器で、温かみのある素朴な風合いと絵付けが特徴です。
1軒目で見つけたのはフクロウ、鳥、猫の形をしたオブジェ。ぽってりとした丸みのあるカタチで、とぼけた表情を見ていると思わず笑ってしまいます。表情や背中に描かれた絵がそれぞれ違うので、たくさんある中から一つ一つ厳選して買い付けました。
2軒目は以前も訪れたことのあるショップ。所狭しとトナラ陶器が並んでいます。こちらで見つけたのは落ち着いたブルー、グリーン、ブラウンを中心とした色合いの陶器で、日本のインテリアにも馴染みそうです。鳥の形をした壁掛けオブジェや、フラワーベースなどを買い付けました。
次は、昔から使われている伝統的なアイテムなどさまざまなものが並ぶラグニージャ市場へ。別名「泥棒市場」とも呼ばれる、毎週日曜日の朝から開かれるフリーマーケットで、多くの人でにぎわっています。ヴィンテージ品を探して、市場の中をぐるぐると何度もまわります。
昔教会の装飾の一部に使われていたというアイアンでできた飾りを見つけました。太陽、鳥、天秤などたくさんのモチーフが付いていて、ストーリーを感じられます。他にも教会や祭事で飾られる伝統的なオブジェなどを手に入れることができました。
メキシコのオブジェは、メキシコに暮らす人達の明るい人柄と同じくらい、ユニークで愛らしいものばかり。お部屋に取り入れるだけで、なんとも温かな気持ちになります。
※ラグニージャ市場で買い付けたヴィンテージ品は自由が丘店のみで販売します。
買い付けの最後に訪れたのは、ルイス・バラガンの自宅兼仕事場。バラガンは建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を受賞した、メキシコが世界に誇る現代建築家です。この邸宅はユネスコ世界遺産にも登録されています。
メキシコらしいピンク・オレンジ・黄色などカラフルで大胆な色使いや、メキシコで作られたファブリックやオブジェなど、モダニズム建築の中にメキシコの土着的な要素を取り入れています。
緻密に計算して作られた窓に、光の使い方への強いこだわりを感じました。例えばアートに光を反射させて空間を照らしたり、反射光で白壁にほのかに色を付けたり、各所に仕掛けが施されています。光が注ぐリビングの大きな窓からは庭が見え、まるで部屋の中に庭があるよう。日本の建築や庭園も好んでいたそうで、バラガン邸の庭園は借景を取り入れています。
この大きな家に生涯ひとりで住んでいたバラガンは、よく屋上のテラスで空を眺めて考え事をしていたそう。
日本人ではなかなか思いつかない色彩や光の使い方がとても新鮮で、バラガン邸ではたくさんのエネルギーをもらいました。カラフルな街並みや強い日差しといった個性あふれる風土が、メキシコ人のパワフルなスピリットを作り出しているのかもしれません。
買い付けの旅のひとコマ、いかがだったでしょうか。
今回の旅ではたくさんの生産者の現場へ足を運び、作り手と会話をしながら実際に制作風景も見ることができました。
手仕事で作られたものには一つとして同じものはなく、作り手の思いやストーリーが込められています。使ううちにしっくりと手に馴染み、さらに愛着が湧いてくる手仕事ならではの優しい風合いは、私たちの心をも豊かにしてくれます。
ぜひ、日々の暮らしに取り入れてみてはいかがですか。