Scandinavian Craftsmen

Crafted Modern - Artist Interview -

Paula Pääkkönenパウラ・ペーコネンGlass artist, Finland

ガラスアーティストのパウラ・ペーコネンは、ヌータヤルヴィ社のかつてのガラス工場で制作を行う。ヌータヤルヴィ地方のガラス文化は深く、このガラス工場はヌータヤルヴィ社が1793年に設立されて2014年に閉鎖されるまでフィンランドに現存する最も古い工房だった。オイバ・トイッカやカイ・フランクも制作やディレクションを行ったこの場所で彼女に話を聞いた。

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ガラスアーティストになったきっかけを教えてください。

最初はアートというよりデザイン寄りの学校でガラスとセラミックを学びました。その後、スコットランドで3週間インターンをしたときに初めて「ホットショップ(ガラスを吹くための設備を備えた部屋でする作業)」を経験してガラス素材の魅力の虜になりました。フィンランドではガラス工房は閉鎖が進み、このフィールドは縮小しているので他の道を選ぼうと思っていましたが、ガラスに夢中になってしまい、このヌータヤルヴィガラス村の学校のことを知ってガラスのことを学び直しました。

縮小する業界だと知っていて、それでもなお惹かれたのはなぜでしょう?

私の作品にも表れていますが、色にとても魅力を感じているんです。ガラスは光を含みそれをまた放つ素材。こんなに美しい色の世界は今まで見たことがなかった。それに素材がマグマのように溶けて形を変え、生まれ変わる瞬間にドキドキします。作業中はある種の瞑想状態。興奮で身体は燃えるように熱く、でも形を変えるガラスに瞬時に反応しなければいけないので、思考はクリアに保つ必要があります。鮮やかな美しいガラスの色、早いペース、チャレンジの連続の環境にとても中毒性があるのです。

色をガラスで出すのは難しくないですか?

色は自分達で作らず、色がついたガラスを注文しています。さまざまな色をオーダーできますよ。粉状で色を買うこともあって、その場合は混ぜて色を作ります。でも私は棒状の色ガラスを使うことが多くて、レイヤーを重ねることで複雑な色を出して表現しますね。

このストライプや、齧り口のあるアイスキャンディーはどのように作られるのですか?

ストライプは細い棒をカットして、型に等間隔に入れてそこに吹き棒につけたガラスを入れて吹きます。そこから金属の板の面を使って表面を均していくとともに、ツイストさせてストライプにしていく。最後500度くらいになったらアイスの棒部分を差す箇所を熱して、棒を差し込むんです。齧ってあるアイスは、その部分に白い小さな板状のガラスをくっつけます。そして温めながらカットして、トングのような道具で跡をつけて齧り口を成型。そして余分な部分をカットして周りと馴染ませます。この技術を伝えるために動画を撮ったりもしていますよ。

テクニックは学校で習うのですか?

基本的なことは教えてくれます。でも自分のテクニックを磨く必要はありますね。例えば齧ってあるデザインは自分で考えました。できるかわからなかったけど実験的にやってみたんです。失敗することもありますが何度もチャレンジすることが大切ですね。

色についても実験しないと仕上がりがどうなるのかわからないですよね。

そうですね。でも色は出た色で決めるということがほとんど。化学反応だし熱の影響も受けます。色を重ねた場合、全く違う色が出ることもある。例えば2種類の黄色を重ねてレモンイエローを出したかったけど、仕上がったのはピスタチオクリームだったの。そしたら「じゃあこれはピスタチオ味にしましょう」って偶然を受け入れるんです(笑)。

なるほど。ヌータヤルヴィ社のガラスの色使いは有名でしたよね。

ヌータヤルヴィ社には新しい色を開発する時間や予算がたくさんあったんです。カイ・フランクがいたおかげですね。彼がたくさんの色を使いたがったから。後にイッタラが買収したので今はこの工房ではヌータヤルヴィ社の色は使われていなくて、イッタラで継承されていますね。でもここにはカイ・フランクの精神が生きている気がします。

ヌータヤルヴィ社が2014年に閉鎖された後のこの工房には、個人で活動するアーティストがいるのでしょうか。あなたはなぜこの場所で活動されているのでしょう?

ガラスの他に陶芸など別のアーティストもいて、トータルでは25人くらいのアーティストがいます。この工房の特別なところは、さまざまな国のさまざまな人々がいて異なるバックグラウンドを持っていますが、みんなガラスを心から愛していてガラスという素材に共通の言語を見出すことができるんです。それとこの地はガラスの歴史が長いので、説明するのが難しいのですが特有のエネルギーや雰囲気、魔法があります。

ガラスは何百年も前から存在している古い手仕事ですが、新しい技術はまだ生まれてくるものなのでしょうか。

私たちは今も伝統的な道具や技術を使って作品を作っていますが、自分だけの技術を開発するというよりも、同じ技術をどのように応用していくかが大切だと思います。「唯一の正しい方法」とされてきたものから逸脱することを受け入れることもですね。

制作している時に大切にしていることはありますか?

子ども時代の思い出ですね。このアイスの作品もそうです。泥道で自転車を走らせて、小さなアイス屋さんでメフヤ(木の棒がついているシャーベット的なアイス)を買うのですが、それが手の中で溶けてしまったんです。そういった子どもの頃の幸せな記憶がもとになっている作品が多いです。卒業制作でこの作品を作り、今も作り続けています。

あなたにとってシンボリックな作品なんですね。こちらの小さなフラワーベースも素敵ですね。

一輪挿しですね。私は自然が好きで散歩もよくするのですが、子どもの頃に春先に咲くレスケンレッティ(フキタンポポ)の花をよく見つけていて。今でも好きで見かけるとつい摘んじゃうんです。そんな野の花を美しく生けられるモノがない!と作ったのがこの作品です。こういう小さい花器はあまりフィンランドではないかもしれません。

制作する上で影響を受けていることは何かありますか?

自然から影響をたくさん受けていて、特にさまざまな色からですね。あとはステレオタイプですが「一人でもがき苦しむ」ような天才的アーティスト肌でなはくて、友達と楽しく過ごしたり自分自身がハッピーな状態から良いものが生まれてくると思っています。

制作の時間と自分の時間、どのようにバランスを取っていますか?

土日は基本休むようにしています。熱中して何日もやり続けてしまうこともありますが、吹きガラスは体力仕事なので限界があります。なのでカームダウンは必要ですね。時にはけっこう遠くまで出かけます。この間は2週間ラップランドに行ってきました。冬だから全く日が出ないんですけど、それでも朝にはうっすら空がピンクになるのを眺めながら癒されました。1日の中でも仕事を離れる時間を作るようにしていて、犬の散歩とかしていますね。

フィンランドではどんな風に日常の中でアートを楽しんでいますか?

コロナの影響もあって家にいる時間が長くなったり、気分を明るくするために家に美しいものを飾りたいという人がさらに増えましたね。ヘルシンキの人はアートを気軽に楽しんでいる人が多いのではないでしょうか。美しいものに囲まれて暮らしたいという人が多いと思います。

アートはなかなかハードルが高いという人へのアドバイスはありますか?

家の中の自分が好きな場所に何か好きなアートを置いて、それをみて楽しむところから始めるのはどうでしょうか。フィンランドのお客さまで、アイスの作品を暮らしの中で日々眺めてメディテーションというか元気をもらっているという人がいます。そんな風に楽しむのもいいのではないでしょうか。

パウラさんのまわりには幸せなオーラが漂っていますが、幸せの秘訣は何でしょう。

いつも幸せを見つけようと思っています。それ自体が実は私のアートへのインスピレーションになっていると思います。
フィンランドは安全な国で、自然や十分な空間、きれいな空気と食べ物があり、社会はとても平等で教育は無料。人々が幸せになるための条件を全て備えていると思います。でも、実は私はフィンランド人は幸せを感じるのがあまり得意ではないと思っています。シス(フィンランドの価値観で「辛いことに直面しても、それを乗り越える強さ」のこと)を耐えるためだけに使うのではなく、その暗闇の中にも光があるということ。例えば、こんなに長い冬を過ごしたからこそ白夜の夏の光の素晴らしさがわかる、ということに目を向けてみることの方が大切なのではないでしょうか。
そしてアートは時に光と美しさを思い出す方法になる場合があると思うんです。それこそが私がアートを通じて伝えたいことです。

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Paula Pääkkönenパウラ・ペーコネン

1990年生まれ。2014年クオピオにあるSavonia University of Applies Sciencesでデザイン、ガラス、陶芸を学び学士号を取得。その後ガラスの街であるヌータヤルヴィでガラスを専門的に学び、現在もこの地で活動するガラス職人・アーティスト。彼女にとってインスピレーションの源は素材の可能性を探り、伝統的な技法を応用し、新しい表現方法を見つけること。フィンランドの豊かな自然も大切な創造の源のひとつである。アイスキャンディを模した「Assorted Flavours」シリーズや一輪挿しのミニベースなど、子供時代の思い出にルーツを持つ色鮮やかな作品は見る人の心を和ませる。

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