スウェーデンで活動するアーティスト・陶芸家のMasayoshi Oya。東京出身で2007年にスウェーデンに渡り、現地のアート大学を卒業後にStudio Oyamaの屋号でテーブルウェアやアートピースを制作している。2つの国の文化が混ざり合い生まれる作品のことや自身の生き方について、彼のアトリエに伺い話を聞いた。
海外に行こうと思ったきっかけは?
日本にいて日本の陶器を見ていると、作り手の顔が見えないことに疑問を抱くようになったんです。皆が同じような作品を作り、同じような色を使って。作品だけを見ていて作り手の個性が見えないというか。同じ日本文化の中にいたら自分の顔が見せられる作品ができないと思い、海外を視野に入れはじめました。
スウェーデンを選んだのは?
高校の時に聴いていたカーディガンズの、新しさと古さが混ざったスタイルが自分にとっては不思議でとても魅力的でした。そこでカーディガンズが生まれたスウェーデンの文化に興味を持ち、惹かれました。どんな生活がそういう土壌や文化を作り出すのか、それを見つけ出すためにエーランド島にある手仕事の学校カペラゴーデンに行きました。
スウェーデンで学んでみてどうでしたか。日本との違いはありましたか?
教育がまず違いますね。こちらは本人のしたいことを尊重するという点に重点を置いた教育です。一応カリキュラムはあるのですが、自由にやってもし疑問やわからない点があれば聞きにいく。自分がやりたいことが明確でないと学びづらい環境です。日本の陶芸学校だと技術を学ぶことが大切だったので、ほぼ毎日朝からずっと授業がありました。どちらのやり方が良い悪いではなく、何が大事なのかが違うんだなと思いました。
スウェーデンは個人のしたい表現に重きを置かれるので、技法優先というよりも表現性、何でそれを作りたいかなど理由やアイデアに重きを置かれています。だから自然と生徒も技術よりも個性を見せるようになります。自分の作品は、表現はきっちりと描くのではなくて、自分はこう描きたいという姿勢が出るように心掛けました。でも日本人としてのアイデンティティも見せたいという思いがあったので、それは形を作る上での技術や素材の選び方、釉薬の質などで見せることにしました。しっかり作られているなという点が伝わることと、絵はちゃんと自分の個性、姿勢が伝わるということ。
日本の作家さんは顔が見えないと言いましたが、自分はもう少し「自分」らしさを作品を通して見せたい。ただ本当は模様を描くつもりはなかったのですが、釉薬を自分で作る限界を感じて、釉薬に表情をつけられたらなと思って。釉薬で釉薬を塗って表情を付け始めたのがいわゆる「模様を描く」の始まりでした。
制作するときに大切にしていることはなんでしょうか。
自分の気持ちを大切にするということでしょうか。スウェーデンの民族衣装と日本の書道の線をテーマにした作品を作るときにもとても迷って。線と言えばストライプ。今までいろいろな作家さんやブランドがストライプをモチーフにしたものを作っています。例えば、ストライプ模様では有名なマリメッコさん。似てるとか言われるかなとさまざまな気持ちが交差しました。でも自分の線を作ってみたいという気持ちの方が強く、その気持ちを優先しました。多分そういう気持ちを大切にすることが個性を出していくことに繋がっていくのかなと思います。
イデーは「Life in Art(日常芸術)」をテーマに、日々の中でどのようにアートを愉しむか提案しています。大矢さんにとってアートはどんな存在ですか?
自分の中では表現があるものはアートだと思っています。コップという「枠」だからこれはアートではないと判断されているようなことがヨーロッパにいて感じることがあります。日本のようにコップでもアートとして見て貰えるということはあまりないような気がします。ただ自分が思うアートは「枠」ではなく表現がそこにあるかどうかが大切だと思います。コップに表現が見えたらコップでもアートになってくる。それが身近な日常にあるアートだと思います。そういうふうにみると、コップとして使うだけではなく見る愉しさも出てくるかと思います。そういうものが常に身近にあると、生活に豊かな気持ちを与えてくれると思っています。アートクラフト(美術工芸)には、使う・見るという両方の愉しさがあるので、それを楽しんで貰えたらなと思います。
日本だと民藝とかいろいろありますよね。
日本の民藝という価値観はあまりスウェーデンにはないと思います。日用品でも芸術として扱われるというのは日本独特だと思いますし、いいことだと思います。コップとかも自分は誇りを持って作るけれども、スウェーデンの作家さんは評価をちゃんと感じて作れているのかな、と思うことがあります。ただ10年以上前に比べると若い世代を中心に変わってきているのを感じています。民藝という視点からではないのですが、質が良く好きなものを長く使おうという考えです。
スウェーデンでの暮らしは、自身のものづくりに影響を与えていると思いますか?
もちろんです。スウェーデンの暮らし方、考え方、文化があったからこそ、自分の作品は生まれたと思っています。この曖昧な線・表現を受け入れてくれる文化があったのと、個人主義の国なので自分のしたいことがしやすい。だから自分の作りたい作品を作り続けてこられたのかなと思っています。日本でこれをやっていたら受け入れてもらえているのかわからないですね。初めて両親に自分の作品を見せたときも、ふざけちゃ駄目だよと言われたのをよく覚えています(笑)。今では一番の良き理解者ですが。
スウェーデンの人はそれをどう受け取っているんでしょうかね。
難しい質問ですね。でも自分の作品は日本人の技術を見せるものづくりとスウェーデンの表現が見られる作品なので、きっちり作っている部分も見えたり、ただそれがスウェーデンの方達にとってどことなく大量製品に見られたり、そのためにデザイン作品に捉われたりしている気がします。でもアーティスト感のある手描きの模様など芸術的な部分も多く見える。日本のように「手仕事=芸術」だと直結してる文化がないので、自分の作品はデザインの作品として評価されていると思います。その証拠に自分の作品がスカンジナビアのデザイン分野の賞にノミネートされたりしました。スウェーデンでは、どこかスウェーデンのミッドセンチュリー時代の陶器と現代アートの融合をした作品だと受け取って貰えているんだと思います。
大矢さんの暮らしについて教えてください。日々の暮らしの中で大切にしていることはどんなことでしょう。
頑張らないことを努力しています。日本人は辛抱ができてしまう。忍耐ができてしまうので、仕事にしても我慢して頑張ってしまう。でもスウェーデンの人はどこまで頑張るかにちゃんと線を引いています。前に注文がたくさんあったのですが、そうすると仕事も雑になってしまうしクリエイティブな時間もなくなってしまう。だから頑張らない努力をしています。
北欧の幸福度は世界的にも高いと言われますが、幸せに暮らしていくコツはありますか?
こちらに来て思ったのは、個人が生きたいように生きるのを優先できることだと思います。それが幸福度につながるのかもしれません。仕事も変えたいと思えば変えるし、離婚もするし。ただその個人の生き方に政治が合わせているのが日本との大きな違いなのかなと思います。スウェーデンの方は、気持ちを汲み取るという文化が日本に比べてあまりない気がします。言わないとわからないから、裏表なくお互いが考えを伝えて理解がうまれる。だから主張することが許されたり、意見を伝え合って討論して解決策を探ることが当たり前だったり。だから主張することによって嫌に思われたりすることもなく、「Gör som du vill(あなたの好きなようにして).」というのがスウェーデン人の口癖です。自分が日本人の性格のせいかよく言われます(笑)。
大矢さんはスウェーデンスタイルが合っているんですか?
YesとNoの両方ですね(笑)。完璧な国がないように、どの国や街が自分に完全に合うということはないです。だからどこの国にいても自分がしっかりしないと、と思います。
違う文化の中で生活するという経験は、人間的に鍛えられますね。日本に帰って宅急便が普通に届いたり、いろいろなところで丁寧な対応をされたり、周りの人に対して敬意を払ったり、いつでも専門の病院に行ける、電車がちゃんと来る、日本での日常が独りで頑張らないで良いと言われているようで、ホッとすることがよくあります。日本のみんなでやってこうという感じに守られている感覚は日本人としては安心感を覚えます。スウェーデンだと良く荷物の催促をしたり、あまり丁寧に対応をして貰えなかったり、コロナ以前なのに病院に来院を断られて、スウェーデンのシステム上たらい回しにされている間に病気が悪化したり、自分の主張を頑張らないと通用しない場面が多く、疲れを覚えることが多々あります。
ただその日本の良さが個人のしたいことを妨げている場面もあるのかなと思います。もし自分がスウェーデンに来ていなかったら、日本のそういった環境の中では自分のやりたい作品が作れていなかったと思います。周りの人の反応を気にし過ぎて。スウェーデンの「Gör som du vill」精神があったからこそ今の自分の作品があると思っています。
ただスウェーデンだけに留まって暮らしていくのも無理です。やっぱり日本に帰って日本の文化に触れあってホッとする機会がないとスウェーデンでも頑張れないので、日本、スウェーデン、両方のスタイルが好きです。
※作品は自由が丘店にて展示販売中です。オンラインでの取り扱いはありません。
アーティスト・陶芸家。東京出身。大学卒業後一旦は就職するものの、子どもの頃の夢を叶えるべく愛知県の瀬戸で陶芸を学ぶ。2007年にスウェーデンに渡り、エーランド島にある手仕事の学校カペラゴーデンにて陶芸を学ぶ。その後スウェーデン西海岸のHDKヨーテボリデザイン工芸大学にてデザイン・陶芸の修士課程終了後、Studio Oyamaを立ち上げる。スウェーデンと日本、二つの国の文化、伝統、デザイン、クラフトからインスパイアされ、主に轆轤や鋳込みにより、テーブルウェアやアートピースを制作している。スウェーデンの民族衣装のエプロンの柄からインスパイアされたシリーズ「Folkdräkt(フォルクドレクト)」は、書道の筆使いのような有機的で動きのあるラインが描かれており、それが作品を際立てている。